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少女はすっかりカノコに心を許したのか、手を離さなかった。二人は手をつなぎながら風車のもとまで歩いた。風車の近くには小さい村があり、そこに少女は住んでいるという。私は二人の後ろ姿を見守りながらワゴンをひいた。
少女を無事に村まで送り届け、私たちは旅路に戻った。
カノコは私の前を歩きながら言った。
「あの子、家族の誰かに殴られたみたい」
「えっ?」
「風車のふもとにお花畑があったでしょう。あそこは風が強かったから、その先の道にいた私たちにまで花の声が聞こえたのね。」
私たち、と私も一括りにされていることに気づく。カノコはいつも私のことまでカウントしてくれる。それはありがたいことなのだけど、花の声というものは私には一切聞こえていないので今回に関しては少し違う気がするが、あえて何も言わないでおく。
カノコは話を続けた。
「あそこのお花畑を手入れしているのはあの村の人々なのよ。もちろん、あの子もそのうちの一人。だからお花たちはあの子が泣いているのに耐えられなかったのね」
「それでいきなり花をあげたんですね」
「お花畑を大切にしている子ということは、お花が好きなのよ。だからそれが一番手っ取り早く泣き止ませる方法だと思ったの」
カノコは一度もこちらを振り向かない。いつも前ばかり向いている。私がひくワゴンの花たちから何か聞こえていて、そのおかげで後ろは振り向かなくてもいいのかもしれない。だけど、花の声がなくてもきっと彼女は振り向かない。
「心配しないで、アルヴァン。小さな喧嘩みたいなものだったと思うから、これからは大丈夫よ。あの子はやさしさを知っている」
カノコはこちらを向いて微笑んだ。
何に対しての「心配しないで」なのかはよくわからなかった。
どんなに小さな喧嘩でも手を出すのはよくない。兄弟なのか親なのかは知らないけれど、あの少女が喧嘩で殴られないことを祈りながら、私たちは次の街へ花を売りに行く。
いや、――幸せを配りに行く
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