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大学卒業後、企業の内定を取れなかった自分の心は荒んでいた。あたかも社会に必要とされていないと感じることが、こんなにも辛いとは考えもしなかった。
そんな中でも朱音は付き合いを続けてくれていた。様子を見に来ては、一緒に遊びに行かないかなどと励まそうとしてくれる。
嬉しいという感情と共に自分の不甲斐なさに苛立ちを覚えていた。
ニヵ月後、契約社員として働くようになった僕は、人が変わったように仕事に打ち込んでいた。なんとかして彼女と一緒に生きたいという思いが、行動を変化させたのである。
家に帰ってくると、朱音の明るい声が聞こえてくる。
「お帰りなさい。ご飯できてるよ」
「ありがとう。すぐ食べるよ」
リビングに行って一人増えた家族の顔を眺めに行く。ベビーベッドに顔を向けると目が合った。
娘の顔の前に人差し指を近づけると小さな手が包み込むようにしっかりと握りしめてきた。にこにことしている表情を見ると、自分の心にじんわりと温かさを感じる。
しばらくそうしていたら朱音が口を開いた。
「早く食べないとご飯冷めちゃうよ」
その言葉を聞いてすぐにテーブルの椅子に座り、食事を摂り始める。朱音はミルクを作っている最中だった。
僕の住んでるこの家には二つの宝物がある。
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