反転

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反転

 か細い呼吸で薄れゆく夜を悼む。産まれたての光。藍色の空を徐々に染めあげながらゆったりと、太陽はその身を起こしていく。  朝になると消えてしまう私の体は光に追いやられるように、影の中へ影の中へと消えていく。眠る君の寝顔は安らかで、いつもその開いた瞳を見られないことが、悔しく思う。  重厚で、朝の光を遮断するカーテンを少し開けば、朝が一筋部屋に差し込む。私と彼と、埋められない溝ができる。輪郭も朧気な指先は空気に解けるように霧散して、拘束の消えたカーテンは重力のままにふらりと揺れた。    朝が来る。今日も変わらぬ、朝が来る。    ひとつ欠伸を零せば、知らぬ間にカーテンが開いていることに気がついた。暗がりの部屋に真っ直ぐ伸びた光。その向こうの影に、何かが蠢いた気がした。  その何かを見たくて、カーテンを厚くしたのに。  朝の光を追いやるようにカーテンを閉めても、もうそこにはなにもいない。彼女の影も、形も、呼吸も何一つ残ってやいない。分かるのは夢の中で優しく額を擦ってくれた体温。夢と現の狭間、あと一歩で眠れる僕を子守唄で導いてくれたその声。  カーテンが揺れる。朝の光がじゃれつくようにちろちろと、白く床を走り回っている。夜の空気はもはや遠く、遮光カーテン如きでは捕まえられないらしい。
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