甘えん坊型ロボット

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甘えん坊型ロボット

 ロボットを買った。人と見間違うほどの精巧なヒューマノイド型ではなく、三頭身の雪だるまみたいな形をしたそれは、電源を入れたその時から私の後ろを着いて歩く。ころころと車輪が滑る音は随分と旧時代を彷彿とさせるけれど、形はどうであれ、機能は最新式のそれと変わらないらしい。そんなわけで私は最新の科学の塊と毎日を過ごすこととなる。  食べ物を欲すれば暖かいまま届き、欲しいものを祈れば即日に手に入る生活は、随分と居心地のよい生活だった。ロボットはどうやら甘えん坊らしくなにか願いを叶える度に対価として頭を撫でてもらいたがり、それも愛嬌の一種に思えて随分と可愛い。望むがまま頭を撫でてやれば、それは随分と喜ぶ。  そんなある日、遠くへ行きたいと呟いた瞬間に、世界は一変する。見知った天井はなく、果ての無い青空。空調の整備された部屋ではなく、乾いた暑さが私の肌を焼く。どうやらたった一言の独り言で、テレポートしてしまったようだ。広い草原。そよそよと穏やかな風が吹く一方で、遠くに見えるのは、トラか、ライオンか。捕食する側の動物が見えて、私は慌てて岩陰に隠れる。  テレポートの力を放った張本人は、太陽の光を銀色のボディに滑らせながら『トオク、デス』なんて、目に当たる部分をご機嫌に明滅させる。そうしていつもの様に、さも褒めて欲しいように頭を突き出すが、こちらとしてはそれどころじゃない。ここはどこなのだろう。靴も履いていないから、靴下越しに焼けた砂が肌を焼いていく。 「どうするのよこれえ」 『オキニメシマシタカ』 「召すと思うの?!」  小声でそうまくし立てれば、彼は頭を再び差し出す。LEDを器用に光らせ、彼はつむった瞼を描き出す。しかし私はそれと、遠くの肉食獣を交互に見ながら「いいから帰して」と口にする。ロボットはもったりと顔を上げて、私を元の部屋に戻す。  そうして帰還した直後にまた彼は頭を下げるので、仕方なしにその頭に触れた。存分に陽光を吸った金属は私の指先に熱を寄越し、慌てて話せばロボットは不機嫌そうに唸る。 『ワガママ、ワガママ』  そうしてカラカラと音を立てて、部屋の隅に座り込む。どうやら車輪に巻き込まれていたのであろう、彼の移動した軌跡に、小さな砂粒が川のように伸びている。掃除をしてと頼んでも、きっと彼は暫くは応じてくれないだろう。これも甘えん坊の範疇なのだろうかと、私は今日も考えあぐねいている。
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