トースト・サンドウィッチ

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トースト・サンドウィッチ

 トーストの上をバターが滑る。ナイフにあわせて溶け出したそれが、甘く空気に溶けていく。さりさりと音を立てて、皿の上には細かい粉が舞い落ちる。洗い立ての、まだ水気のついたレタスを敷き、ミックスサラダを散りばめる。スクランブルエッグをスプーンで掬い、でこぼこしたそれになでつけて、斜めにナイフで切れ込みを入れて挟んでしまえば――お手軽なトーストサンドの出来上がりだ。  二つ分準備したところで、ケトルから大きなあぶくが産まれ、そして消えた。幾度かそれを繰り返し、ぱちりとスイッチが跳ね上がったタイミングで「沸いたよ」と欠伸混じりの声。一緒に暮らし始めてもうすぐ一ヶ月になるけれど、こうしてお互いの生活リズムが揃うのは随分と珍しい。    沸き立てのケトルを持ち、寝ぼけ眼のまま彼は水屋からマグカップを二つ取り出す。そうしてインスタントコーヒーの筒をあけながら「コーヒーでいい?」と一言。いつだって彼はワンテンポ遅いのだ。「いいよ」と言えば「よかった」と彼。甘いバターの香りに、芳ばしいコーヒーの香りが重なる。 「今日はサンドウィッチだ」  彼がコーヒーを置いて、対面に座る。私も椅子に腰を下ろして「食べたくなっちゃって」と手を合わせ、二人揃って「いただきます」とサンドウィッチに手を伸ばす。  一口。トーストがさくりと音を立てる。スクランブルエッグがレタスを伝い、口の中へと落ちていく。ほのかに甘いバターが口中に広がり、スクランブルエッグと混じり合う。 「あ」  彼が声を出す。 「また野菜、水切ってない」  彼の言葉に、ばれたか、と私はトーストにかぶりついた。ぼたりぼたりとスクランブルエッグが、露呈するようにトーストの向こうから垂れて落ちる。「落ちてる落ちてる」と彼は笑う。そうしてかぶりつく彼も、パンの端からスクランブルエッグを零していく。 「厚焼き卵が正解なのかな」 「詰め込みすぎなのかもね」 「うーん、難しい」  そうしてお互いパンをちぎって、皿に出来たスクランブルエッグの水溜まりを掬う。ジャムのように絡まったパンの切れ端は、それはそれで、結構美味しい。 「今度は俺が作るよ」  指先についたパンくずを落としながら、彼が言う。 「野菜の水を切ったバージョン?」  と返せば「切ってないバージョンはきみに任せるよ」と彼は笑って「交互に食べればいいさ」なんて大口を開けてサンドウィッチにかぶりつく。  再び落ちるスクランブルエッグに「厚焼き卵バージョンがいいな」と笑えば「そうだね」と彼は肩を竦めた。
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