審判の甘味

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審判の甘味

 たかが食べ物ごときだ。  冷蔵庫に入れていたコンビニのプリン。仕事終わりに食べようと思っていた、自分への、ほんの少しの可愛いご褒美。それをうっかり食べたことを彼は今朝方、申し訳なさそうに申告してきた。  私は丁度朝食のパンをかじったところで、ぽろぽろと零れるパンの欠片をお皿に落としながら「ふうん」と言った。朝の準備には時間がかかる。頭の中はこれから行う髪のセットや化粧のことなどでいっぱいで――だからふうん、とだけ、ふうんそうなんだと心の中で思いながら言葉を紡いだのだ。どうやら、それが悪かった。  怒っていると思ったのだろう。会社へ行き、自席に着いて携帯を開けば『本当にごめん』。可愛いスタンプとともに送られてきたその言葉に『気にしてないよ』と返す。だってたかがプリンだし、今日買って帰ればいいだけの話だし。手短に送ったメッセージに、即既読が付く。ほんとうにごめんねと、可愛いウサギが頭を下げているスタンプを確認した矢先、「朝礼を始めます」とフロアから声。私はディスプレイを消灯した。  許すべきか許さぬべきか。全てはこの味で決まるのでしょうと言いたげな顔をして、プリンは机の上に鎮座していた。冬の夜の空気に晒されたコートを脱ぎ、椅子へとかける。リビングのソファの向こうから、ちらつく視線に「一緒に食べる?」と尋ねれば、彼は嬉しそうに「食べる!」と声を弾ませてソファの向こうから顔を出した。
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