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千秋楽
真っ暗闇の中、映像だけが流れる。幼い少年。母親と父親に囲まれて、幸せそうに笑っている。特筆することもない住宅地の一角。学校までは徒歩20分。近所の少年少女に囲まれて、集団登校をしている。
夏、蝉が嘶く木に振り下ろされる虫取り網。日焼けした肌。海。煌めく海面。波のとがりは陽光を吸い込んで、何度も何度もその縁取りの形を変える。父親と行った釣り堀。残った宿題。冬、お年玉を片手に訪ねた巨大なおもちゃ屋さん。
中学になれば部活が始まる。少し大人になった少年。気になっていたクラスの女子。髪を整えるのは気恥ずかしいけれど、女子が好きなアイドルを真似て、ワックスで固めた。なけなしのお小遣いで月に一回、ファストフード店に入った。晩ご飯がいらないと言えば、母親はとても怒っていた。
高校。力を入れた部活。お金が欲しくて始めた、慣れないバイト。初めて出来た彼女にプレゼントを買ってあげたかったのだ。部活では見せないその笑顔のために、頑張りたかった。
高校。文化祭。ふらふらな俺。並び立てられる木材が、風に煽られ不穏に揺れた。
そこで、ぶつりと、映像が途切れる。
映画の終わった映画館のように、徐々に白んでいく景色。『かみさま』だと言っていた光の塊は、白い空虚な空間で、ぼんやりと青白い光を放っている。
どうでしたか、なんて問われても後戻りなんて、出来ないくせに。反論するのも歯痒くて『良い人生だったよ』と言い捨てるように言葉を吐いた。
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