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結局、ふらふらとバランスを崩しそうな覚束ない足取りながら、肩車をしたまま迷子センター前まで到着したヒカゲとシン。ここまで来ればひとまずは安心だろう。担当の人に放送を流してもらい、母親が迎えに来てくれるのをここで待つだけなのだから。
「あれ……!? シンっ!」
「あ、ママっ!」
だが、不意に後ろからかけられた声に、思わずヒカゲが振り返る。声の主の女性とシンのリアクションからして、どうやら探し人で違いない。
その女性は、確かにシンの言うように帽子と眼鏡でぱっと見の印象を変えている。しかし、変装をしている上からでも美人だと、同性のヒカゲでさえ認めざるを得ない。
「えっと……思ったよりもずっと若くてびっくりしたけど、あんたがシンくんのママで間違いないみたいね。迷子センターで呼び出す手間が省けてよかったわ」
「あなたがシンをここまで連れてきてくれたんだね。どうもありがとう」
笑顔でお礼を言うピンクの髪の彼女は、どう見ても二十代前半ほどの年齢にしか見えない。ヒカゲが女神代理となったのがちょうど二十歳の頃なので、そう歳も変わらないはずだ。
それなのに、どうしてこうも彼女は大人っぽく見えるのだろうか。若々しいのに、色気がある……とでも表現すれば良いのだろうか。ヒカゲが初見で同性の容姿に圧倒される経験は、今までにないことである。
「ふ、ふーん、わざわざ変装するだけあって、結構かわいいじゃない……私には及ばないけどね!」
「なんかよくわからないけど、褒めてくれてるの? ありがと〜、あなたもかわいいよ」
心の余裕という意味でも、明らかな敗北を喫しているのは明白。しかし、優れた容姿だけならヒカゲも相当な美人であり、彼女の褒め言葉も建前だけのものではない、とヒカゲの名誉のために追記しておく。
「……あら? その後ろの子…… もしかして」
「ああ、うん。この子もうちの子だよ。シンの双子の妹で、アスカっていうの」
ふとヒカゲの目に留まったのは、母親の後ろに隠れる小さな女の子の姿。アスカと呼ばれたその幼女は、淡紅色のボブカットで、おとなしそうな印象を受ける。
対し、その兄妹であるシンは、青みがかった黒髪で、活発なイメージ。というか、先ほどから初対面のヒカゲと臆することなく話せているので、人懐こいのだろう。双子ではあるが、性格は真逆のようだ。
「で、わたしがルミ。よろしくね」
「まあ、よろしくと言われればよろしくしてあげないこともないけど……私はヒカゲよ」
こういう時でも、ヒカゲ特有の上から目線は変わらない。幸い、ルミはこのくらいのことでは気にしない性格のようで、失礼とは捉えられていないようだが。
「あのね、ママ! ヒカゲおねーちゃん、まいごなんだって!」
「迷子だったのはシンの方でしょー。それに、ヒカゲはもう大人なんだから、迷子になんて……」
「あ、あの、そのことなんだけどね」
自己紹介を済ませ、軽く打ち解けたところでシンの無邪気な暴露。流石にこの歳で迷子というのは、ヒカゲとしても恥ずかしいのだが、事実なので否定しようがない。
どうせバレてしまったのなら、とヒカゲは自分の口から明かすことにした。それに、アテも頼りもない現状、藁にも縋りたい気持ちだったのだ。
「正直に言うと、迷子なのはほんとの話で……でも私もどうしてこうなったのか、よくわかってなくて。誰も頼れる人がいなくて困ってたところを、この子に声かけてもらって……すごく嬉しかったのよ」
「……うん? 話が見えてこないけど、どうやらわけアリってことらしいのはわかったよ」
動揺していることもあってか、言葉不足であまりにも説明下手なヒカゲだったが、それさえ含めてルミは全てを受け止めてくれる。
「とりあえず、お茶でも飲みながらゆっくり話さない? いつまでもこんなとこにいるのはどうかと思うしさ」
「で、でも私、お金なんて持ってないわよ」
「大丈夫大丈夫、お代は全部こっちで持つから。息子を助けてくれたお礼と思って、遠慮しないで」
眩しいくらいの明るい笑顔をヒカゲただ一人に向けながらのルミの提案は、非常にありがたいものだった。昼食を食べ損ねていたからだ。
そういうことであれば、断る理由もない。ヒカゲはルミの後をついていく形で、デパート内のレストラン街へと足を運ぶこととなった。
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