迷子と迷子の女神さん

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 そして数十分後、デパート内テナントのファミレスにて、ヒカゲとルミ親子は食事を摂りながら諸々の事情を伺っていた。  とは言え、昼時は過ぎており、ルミ親子は家で昼食を済ませて来ていたので、飲み物とデザートのみだ。昼食を食べ損なったヒカゲはそこに加えてドリアとサラダも注文している。 「なるほどなるほど。つまりヒカゲは、ここじゃないどこか別の世界から来たんだねぇ」  コーヒーを一口啜りながら、うんうんと頷くルミ。話を受け入れるのが異様に早い。 「や、やっぱりミッドガルドじゃなかったのね、ここ……」  そして、ヒカゲ自身薄々感づいてはいたことだが、そうはっきりと口に出されると不安になるというもの。  最悪、ミッドガルド内であればまだ迷子の範疇で済んだ話だ。恥も外聞も捨て去って、頼れるものになんでも頼れたのなら、いつかは魔王城へ帰れる可能性だって残されていたはず。  だが、異世界となるとそうはいかない。そもそも、物理的にどう足掻いたって帰れないのだから。地続きでないということは、相当深刻な問題だ。 「私、どうなっちゃうのかしら……こっちの世界のこと、なんにも知らないし、お金だって持ってない……ここの食事代も出して貰っちゃったけど、返せと言われたら返すアテもないわ……いよいよとなったら、汚いおじさんに体売って返せってことも……」 「いや息子の恩人にそんなことさせないからね!? 何度も言うけど、ここは奢りだから! 返さなくていいから、本当に!」  不安のあまりネガティブ思考に陥っていたヒカゲは、とんでもないことを口走っていた。流石にこんな場所でこれ以上アレな発言をされてはまずいので、ルミは必死にフォローに入る。  そしてヒカゲは根が単純でコントロールしやすい。少し落ち着いてきたな、と思ったタイミングで、ルミは更に畳みかける。 「それに、そういう事情があるなら、むしろヒカゲは運が良かったよ。だって、ルミたちなら力になってあげられるからね」 「え……?」  一寸先は闇。どこからどうすればよいのやらもわからない中で、目の前に差し込む希望の光。  まさしくヒカゲにとって、今のルミは救いの神のようにも見えているだろう。神なのはヒカゲの方だが。 「まあ、普通に考えたら異世界なんて言われてもどうしようもないし、頭の出来の方を心配されて終わりだと思うけどさ。何の因果か、これでもルミは元英雄でね。そういう困った子の力になってあげられずにはいられないんだ」  ルミが協力する理由は、異世界への介入となる今回の件、四英雄と呼ばれる彼女ら以外の者を極力巻き込みたくなかったということもあるが、単純に今のヒカゲを放っておくことができないと思ったのが大きい。  実力を得て立場が変わり、迂闊に動けなくなってしまったかつての勇者パーティの大人は、それでも尚根っこの善性は変わらないままだ。 「る……ルミ〜〜〜っ! あんた、すっごいいいやつね!」  安心したのか、涙を流して喜びの声を上げるヒカゲ。つい先ほどまで落ち込んでいたのに、コロコロと表情が変わって面白い……その感想は、そっとルミの胸の内に仕舞い込まれた。 「まあ、細かいことはあとで話し合お? ヒカゲはしばらくうちに来るといいよ。幸いうちはお金には困ってないからね」 「よかった、ほんとによかったぁ〜っ! 私、ルミに会えてほんとによかったよ〜〜っ!」  もう、トイレで目が覚めた時の不安など微塵も残っていない。どう元の世界に帰るかはさておき、この世界での後ろ盾を得られたのは非常に大きな幸運だった。  ひとまずは、テーブルに残った料理を全て平らげてしまうことにしよう。行動を起こすのは、腹拵えをしてからでも遅くはないのだから。
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