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今日この日が、何月何日だったであろうか。雲の一欠片すらない真っ青な空に、吹き抜ける爽やかな風。きっとこの陽気は春だろう。
しかしそんなことは、今の彼……クロード=シキジョウ=ベルゼクスにはどうでもよいことだった。
何故ならば、クロードは現在、四方を大トカゲの群れに囲まれているからだ。今まさに、かつて経験したことのない絶対絶命の窮地に立っているのである。
「……なんでこんなことになっちまったんだろうなぁ。俺、なーんも悪いことしてねーよなぁ……」
父であり直属の上司でもある大魔王からの命令とは言え、他世界の侵略を任されている魔王軍の司令官である彼が言えた台詞ではない。尤も、大した侵略実績はないのだが。
そして、そんな大層な肩書とは裏腹に戦闘能力は皆無。クロードは既に己の死を確信し、それを受け入れる準備はできていた。
いつ大トカゲたちが飛びかかってくるのか、それは彼らの気分次第だろう。せめて恐怖を感じぬようにと、弟はすっと目蓋を閉じた。すると、ふと脳裏に浮かんでくるのは、最後にいつもの魔王城で過ごした日常風景。
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