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クロードが再び目を開けた時、大口を開けた大トカゲの群れは手を伸ばせば届く距離まで差し迫ってきていた。どうやら死の間際に見た走馬灯のように、つい先程の出来事を想起するのに掛かった時間は刹那であったらしい。
そして、相も変わらずクロードの時はゆっくりと流れていた。襲いくるトカゲ達の動きがスローモーションに見える。しかし、そう見えたところで、クロード自身が素早く動けるようになったわけではないので、やはり死に際の瞬間的超感覚でしかないのだろう。
最早死は確定した未来。あとはそれを自分自身が受け入れるかどうか。そんなところまで来て、〝その男〟は現れた。
片刃の直刀を両手に握ったその男は、たった一度の斬撃で向かってきた大トカゲを全て薙ぎ払ったのだ。
「っ……!?」
息をすることも忘れていたクロードが、ようやく喉の奥から空気を絞り出す。彼の登場は、クロードに生の実感を取り戻させたのだ。
一方、斬り払われたトカゲの群れと言えば、運悪く即死したものや痛みにのたうち回るもの、その後方には仲間をやられて警戒心を高めるもの。生存数で言えば、十五、六匹といったどころか。
「失せろ。これ以上無駄に仲間の屍増やしたくなかったらな」
彼の背面しか見ていないクロードですらわかる、圧倒的強者の威圧。言葉など通じるはずのないトカゲにすら、逆らってはならない相手と認識させるには充分過ぎた。
既に事切れた個体、満足に動けない個体を除いたトカゲの群れは、四方に散り散りに逃げて行く。
「おい、お前怪我はねぇか」
「あ、ああ、おかげさまでかすり傷の一つすら……ありがとう、助かったよ」
振り向き声を掛けてきたその青年は、目付きの悪さを除けばそこら辺の一般人と何ら大差のない印象を受ける。十数匹もの大トカゲを一太刀の元に斬り伏せるような強い剣士とは、到底思えなかった。
年の頃は、クロードと同程度……二十代前半といったところだろうか。尤も、クロードは魔族と人間のハーフ故、寿命は通常の人間よりも遥かに長く、見た目年齢の十倍は長い時を永らえているのだが。
「無事ならいい……が、武器も持たず、護衛もつけず街の外へ出るたァ感心しねぇな」
「俺だってここにいるのは不本意だよ……俺自身でさえ信じ難い出来事があって、命の危機に晒されたわけなんだが……」
何やら自分が怪しまれているようだ、と感じ取ったクロードは、それを承知の上で正直に全てを話すことにした。ここがどこのどんな地域かがわからない以上、下手な嘘をつくよりはマシと判断したためだ。
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