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「なるほど。大体わかった」
つい数分前に自身が体験した出来事を、クロードは嘘偽りなく全て打ち明ける。話している最中から、自分ですら嘘臭いなと思いながらではあったが、黄土色の髪の救世主は意外にもすんなり納得してくれたようだ。
「……自分で言うのもなんだが、こんな話をあっさり信じてくれるとは思わなかった……疑ったりしないのか?」
「むしろお前は疑って欲しくて俺にそんな嘘を吐いたのか?」
「いや……話が早くて助かるけども」
その妙な飲み込みの速さは、逆にクロードの方が疑念を持つレベルだが、面倒がなくてありがたい。
むしろ、これ以上突っ込んで変に話がこじれる方が問題だ。先ほどのようにいつまた凶暴な生物たちに襲われるかもわからない状況で、この男に見放されることは死を意味する。
「そいつが嘘吐いてるかどうかなんざ見りゃあわかんだよ。安心して正直に話せ」
そう言い切る彼の言は非常にありがたいものではあるのだが、如何せん目つきが怖い。本人にはそのつもりはなかろうが、威圧されている気分になってしまう。
いくら正直者のクロードとは言え、助けてくれた相手に対してそんな失礼を堂々と振る舞えるわけもなく、態度に出さぬよう細心の注意を払いつつ対応することを迫られた。
「……そういや、まだ名乗ってなかったな。俺ァシュウってんだ」
「俺はクロード。改めて、危ないところを助けてくれてありがとうな、シュウ」
自己紹介がてらに握手を要求してみたら、シュウはあっさりとそれを受け入れてくれた。悪いのは目つきだけで、こちらに友好的なのはクロードにとって僥倖だった。
ひとまずこれで、今すぐに命の心配をする必要は無くなったと考えて良いだろう。大トカゲの群れを一蹴したあの強さを見れば、その点は安心できる。
「さて……一先ずは王都へ戻ろう。その道中、さらに詳しい話を聞かせてくれるか」
とは言え、モンスター達に襲われる危険性のある場所では、落ち着けて腰を下ろすこともできない。ご厚意に甘え、シュウの住む街へ案内してもらうことにする。
幸いにも、その街からはあまり遠くは離れていない場所だったらしく、30分ほどで大きな外壁の門を潜ることができた。
「はー……でっけぇ外壁。今時こんな城郭都市が存在していたとは」
「身をもって体験したばかりだから言うまでもないが、街の外はあんなのがウヨウヨしてるわけだからな。こっちじゃこれが一般的だ」
現在、クロードの住む土地……ミッドガルドでは、このような形態の都市は珍しい。そもそも壁を作る意味が薄いからだ。
故に、ベジタブール王国首都、ラディシュが誇る堅牢な外壁は、クロードの目には新鮮に映る。まさにカルチャーギャップ。
「あ、そういや、そんな危険な場所にわざわざ出向いてたってのに、途中で俺を拾って……何か用があったんじゃないのか?」
「その用の帰りに助けただけだ。お前は何も気にしなくていい」
クロードの思った以上に、どうやらシュウはいい人そうだった。目つきの悪さの他に目立った欠点は今のところ見当たらない。
思えば、こうもまともな人間と話をするのはいつ振りであろうか。個性の濃過ぎる城の面々、家族に振り回されてばかりで、久しく忘れていたこの感覚。会話とはこうあるべきだ、と。
「さて、目下やるべき事はいくらでもあるが……とりあえずは俺の職場へ案内しよう。聞く限り異世界人のお前には、現状この国での居場所がないからな。俺の近くにいるのが安全だろ」
「本当に何から何まですまねぇな……この礼はいつか必ず」
この短時間のうちに、シュウへの恩義が次々積み重なっていく。おそらくクロードが返そうと思っても返せるものではないが、それはクロード自身が良しとしないだろう。
その時になったら考えればいい。受けた恩だけ、絶対に忘れずにさえいればそれでいいのだ。
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