0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
それからも相変わらずバズった人、と言われる日々が続いた。しかしピアノの方は新しい人が立ち替わり演奏しているようで、時々弾いてみたの動画がハッシュタグ付きで上げられる。その中で、発端となったの謎の大学生はあれ以来目撃されていない。というコメントがあって、俺は珍獣は何かと同じ扱いなんだろうかと少し呆れたりもした。
そんなある日、大学帰りに高瀬と一緒に駅を歩いていると偶然ピアノのそばを通りがかった。
昼間の広場は人が多く、ピアノの周りにも何人か人がいたが弾いている人はいなかった。ちらっと確認だけして、通り過ぎようとするとピアノの方から「瞬さん!」という聞き覚えのある声が聞こえてきて振り返ると学生服姿の百音が走ってくるではないか。
「瞬、知り合い?」
「あ、えっと…」
高瀬に今までのことを手短に説明すると、ああなるほどと何か心得たように頷く。
「要するにお前の熱烈ファン一号ってわけだな」
「おいやめろよ」
百音は瞬の前まで来ると「わたし、待ってました」と言う。
「…もしかしてずっと待ってたわけ?ここで?」
「あ、えと流石に学校の時間は無理ですけどそれ以外は待ってました。ここで」
百音の言葉に呆れる。
「いつ来るかもわからないのに?」
「はい、瞬さんのピアノまた聞きたいので」
「だから俺はやめたって言った」
「でも」
すると隣の高瀬が、ファンを大事のしろよと瞬を小突いてくる。
「こんなに待たせておいて、何もなしとか酷え奴だな」
「お前な」
何か弾いてあげればいいじゃん、別に減るもんじゃないし。と高瀬が百音の味方についてしまい、百音からも「お願いします」と頭を下げられてしまっては、いよいよ逃げ場がなくなってしまった。
しぶしぶ、じゃあ一曲だけと言ってピアノの方へ近づく。
ピアノは最初に弾いた時から何一つ変わらずそこにあって瞬を待っていた。椅子へ座って指慣らしをしながら何を弾こうかと考える。
考えながら、そういえば瞬に一番最初にピアノを弾かせたあの学生服の男の子のことを思い出した。そういえば彼もこのピアノに来ているのだろうか?
そんなことを思っていたので、指から出てきた曲は彼があの時弾いていた花の歌だった。
最初のコメントを投稿しよう!