ゲームセット

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 オレはただ、天井を見つめていた。そうすることで心にぽっかりと空いた穴を塞ぐことなどできそうにもなかったけど、かといって何かをする気にもならなかった。  甲子園出場を目指して二年以上野球漬けの生活を送ってきた。プロを目指していたわけじゃない。毎年のように甲子園に出場している強豪校に勝てるとも思えなかった。それでも野球が楽しかったし、仲間たちと過ごす時間は何物にも代えがたかった。  迎えた最後の夏の大会、うちは地方大会三回戦敗退。オレは途中出場して一打数無安打。それがラストゲームとなった。  チームメイトが悔し涙を流す中、オレは呆然と空を見つめていた。悔しいはずなのに涙は出てこなかった。オレの野球への情熱はその程度だったのか――。そう情けなく思うほどだった。  一方でマネージャーの理香は選手以上に泣きじゃくっていた。野球のためと無理やり抑え込んでいた理香への恋心が蘇り、心を満たすのにそれほど時間はかからなかった。  本当の意味での「終わり」はすぐに訪れた。  理香が卓史と付き合い始めたらしい――。  大会が終わって一週間もしないうちに、元チームメイトから聞かされた。オレだけじゃなく、誰もが「やっぱり」と思ったことだろう。  理香が主将の卓史に気があるのはみんな感づいていたし、卓史は引退するまで彼女は作らないと宣言していたものの、理香のことはいつも気づかっていた。大会が終われば二人が結ばれるのは自然な成り行きだった。  自分にもワンチャンあるんじゃないか。断られるとしても想いは伝えたい。できれば夏休み中に。そう考えているところに例の噂が舞い込んできて、オレの夏は完全に終わったというわけだ。  それからずっと、魂が抜けたようにぼんやり過ごしてきた。食事や風呂以外は部屋にこもり、何をするでもなく時間を見送っている。  宿題、進路……。夏休みももうすぐ終わる。切り替えて前に進まなきゃならないのはわかっている。でも、そのための燃料が空なんだ。
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