ユーモラスシステム

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ユーモラスシステム

グローバル化が進む世界において日本人の無能が露呈して久しい昨今 日本人は日本語しか喋れず閉鎖的でコミュニケーションが取りづらいという人種差別に等しい事実は、多国籍企業に採用される日本人新卒を減らし外資を遠ざけ国のガラパゴス化を加速させた そこに待ったをかけたのが時の総理大臣、浦部太郎である 「よく外国の方に日本人はユーモアがないなどと言われますが、わたくしが思うに日本人は元々お笑い好きでユーモラスな民族であります。日常の会話におきましても、微笑ましい冗談が飛び交い、頬を緩める場面が多く、またテレビでもお笑い芸人を目にしない日は、ありません……」 わたしは国定システムの制定と銘打たれた官邸からの中継を部屋のテレビで見ていた 「しかし我々日本人のユーモラスさが外国の方々には伝わっていないというのが実状であります。曰く日本人には1枚の厚い壁があると。それが故に外資系の企業は日本人の採用や取引に及び腰になっており、結果として日本は世界から孤立している……と言うのが有識者会議で出た結論であります」 故に、と総理はカンペとカメラをいったり来たりしていた視線を定め 「我々政府は深刻化するガラパゴス化への対策のため、この日本という国に法律とは似て非なる新たなシステムを導入し、ただちに施行いたします事を宣言させていただきます」 こうして始まったのがユーモラスシステムである 翌日我々国民には1人1基の指輪型ユーモラストークンが国から支給された そのトークンは起動すると起動者を中心に最大半径20メートルのユーモラス電磁フィールドを広げ、フィールド内のトークン所持者を強制的に審査員として選定する そして起動者によるユーモラス行為に対する審査員の反応を感知し、それに応じたポイントの移動を自動でやりくりする ユーモラストークンの装着は国民の責務として課せられ、装着を怠ると笑えない額の罰金と罰則が科される そしてシステムの根幹であるユーモラスポイント。このポイントを多く所持している国民には減税や学費の免除、商品券との交換等々さまざまな特典があり、逆にポイントの少ない国民は税金を上乗せされたりと色々なペナルティーを受ける ユーモラスシステムが導入されて以降この国は大きく変化した 「ふぅ。お嬢ちゃん、いーい天気だねぇ」 駅前のベンチでスマホを弄っていると不意にスーツ姿のおじさんに声を掛けられた ぼおっと見上げたおじさんの背景は曇り空。何か仕掛けてくるに違いない 「ほらぁ」 おじさんが満面の笑みで紺のネクタイを引くと、おじさんの後頭部から太陽が手書きされたパネルがペシっと音を立てて出現する (プッ) ユーモラスシステムにより日本人が持つ独特のよそよそしさや遠慮、距離感というものは確かに無くなった 国の狙い通り1枚の壁が薄くなり国民のコミュニケーション能力は向上しているのかもしれない しかし代わりに表面上の知能は目に見えて落ちた 「アハハ。おじさんくだらなすぎ!」 わたしの笑い声に気を良くしたのか、おじさんはにやけた顔でネクタイをリズミカルに引っ張りペチペチと軽快な音を立てる 「いやーお嬢ちゃんは気持ちよく笑うねぇ。今どき珍しいよ」 それはそうでしょう 我が国の技術の粋であるユーモラストークンは装着している人間の笑いの度合いをも測定するから笑いは堪えるのに越した事はない 大笑いすればするほどポイントが持っていかれてしまうのだから 笑えない世の中なのだ 「だって我慢出来ないんだもん」 笑えない理由はそれだけではない。わたしは目を擦りながらチラリと周囲の様子を探る (5人……いや6人ってところね) つい今しがたまではおじさんの広げたユーモラスフィールドの範囲の中にいたのはわたしだけ ベンチに座る女子高生に狙いを定めて直進したおじさんの動きを周囲の人間はしっかりと警戒していたのだろう 起動者のフィールドの範囲内にいなければポイントが奪われる事はないので、仕掛けそうな怪しい人間からは20メートルの距離を取るというのは現代日本における常識である (では仕掛けるタイプの人間であることが確定しているおじさんのフィールド範囲内に侵入してくるこの6人は何なのか) 知れた事。肉食獣である わたしのような簡単に笑ってしまうタイプの人間は餌として狙われる世の中なのだ このJKあの程度で笑うのかよ。カモだぜ!と向かいからやってくるサングラスのおにーさんは思っているに違いない はっきり言ってわたしは笑いに対して酷く耐性がない すれ違いざまにアバァ!って顔を歪められただけで腹筋がヒクヒクしてしまうありさまだ だがしかし!わたしは!持っている! 取られるのならそれ以上に取ればいいのだ 「ほーれほーれ!」 相変わらずベチペチしているおじさん。おじさんさすがにそれはもう飽きたよ 「あー面白かった。ねえおじさんその太陽さん触ってもいい?」 「いいけど壊しちゃだめだよお」 わたしはベンチから立ち上がり、ひっそりと親指で人差し指のトークンを起動し、満足げな顔のおじさんの砂漠化が進行した頭皮をペチペチと叩いた 「めっちゃ晴れてるめっちゃ晴れてる……ってこれはハゲやないかーい!」 「えっ」 悪いねおじさん。利用させてもらう! 「じゃ、バイバイっ」 ハゲネタは色々と危険なのでわたしは手をヒラヒラさせて都合よく青に変わった横断歩道を駆け抜ける (釣れたかな) アーケードを歩きながらわたしはスマホでユーモラスシステムの管理サイトにアクセス。ログイン済みのアカウントで自分のユーモラスポイントと最新のポイントの収支を確認する -1200 1000 1000 1050 1100 -50 -50 「お、3000ポイントも増えてる」 (やっぱハゲネタは鉄板) こんなに上手くはなかなかいかないけれど、笑いが堪えられないわたしはこんな感じでわたしを狙って集まってくる獣たちを察知し返り討ちにして減らない程度にポイントを稼いでいる (さてと) 本日のわたしの目的地はファミレスである ファミレスというと一昔前までは家族連れなどのライトな客層で賑わうイメージだったが今ではガラリと変わっている 密閉空間であり人が密集し密接した距離間になりやすいいわゆる三密を満たしたファミレスは、ポイントを稼ごうと目をギラつかせる獣たちにより殺伐とした空間にその有り様を変えてしまったのだ ではなぜそんな場所にユーモラス耐性のないわたしが向かうのか スリルである 肉食獣の巣に丸腰で突入し一服して帰る このデンジャラスな行為がひり出す脳内麻薬の中毒者にわたしはなってしまっていた わたしはシャドウボクシングをしながら入り口のドアを押して華麗に入店。カランという音に少し遅れて「いらっしゃいませー」という店員さんの声と店中の客の視線がわたしに注がれる 「シュッ!しゅっしゅっ!」 わたしはそれらの視線をスウェーやブロックを駆使していなし「お一人様ですか?」という問いにコクリと頷き席に案内された 先ほどのわたしの動きは気が触れたわけではなく牽制である ファミレスという場所がユーモラス行為を仕掛けやすくまた仕掛けられやすい場所であるというのは先ほど述べた通り (だからこそ"仕掛けない奴"だと思われる訳にはいかないのよ) これは今やファミレス入店時の儀式みたいなものなのでトークンを起動したりはしない 入店のタイミングで仕掛けても身構えられているから笑いを取れる可能性がすこぶる低いのは常識だ 希に入店と同時に全力で仕掛ける輩もいるが、その手の輩は往々にして浅く見られがちで入店後に不利を背合うことになる 席に案内されるまでの間、誰もがわたしと目を合わせようとせず手元のスマホとにらめっこをしている (この店玄人的な人が多い) 彼らはスマホを見ることでわたしが入店時にトークンを起動したかどうかのチェックをし、同時にわたしからの仕掛けを目に入れないための自衛も行っているのである 「今日のサイゼは熟練者が多いな」 周囲を見渡しながら席に案内されたわたしが独り言ぎみに大きく声を出すと遠くの席から男性の声が響いた 「ここはサイゼじゃなくて吉野家だぞ!」 ……しーん 「ふっ……」 (ごめんそれはさすがに笑えない……) 中腰に立ったサラリーマン風の男性の背がギュッと縮んだ 苦笑いや愛想笑い、あまりにも小さな微笑は笑いとして判定されない。チラりとスマホを見るとサラリーマン風の男性がトークンを起動していた形跡があった (あの人今ので起動しちゃうんだ。可愛い) 熟練者はむやみやたらとトークンを起動したりはしない 熟練者でも今の彼ように場を白けさせる言動を取る事はあるが、トークンを起動してさえいなければそれは場の空気を揺さぶる牽制として認識され本命の仕掛けへの期待感を煽る布石になる (だからこそみんなトークン起動の有無のチェックは怠らない) 視界にはスマホを見て失笑する方々が多々 「ククク……狙われるぜあいつ」 わたしがボックスの座席に座りかけた瞬間、後ろの席で腕を組んで座るおじいさんが嬉しそうに邪悪な笑みを溢した 「ご注文はお決まりですか?」 「ドリンクバーと期間限定のウルトラレアチーズケーキをお願いします」 「ドリンクバーとトリプルレアチーズケーキですね。かしこまりました」 注文を取り颯爽と席を去るウエイトレスさん。今の時代接客の仕事が出来る人間は選ばれし者である 仕掛けられやすく巻き込まれやすいからだ なにしろユーモラスシステムというのは仕掛ける側が圧倒的に有利 笑わせたら笑った人間から1000~1300ポイントを奪えるが仮に誰一人笑わせることが出来なくても一人につき50ポイントとアンユーモラスペナルティーの300ポイントしか失わない つまり3回しかけて1人でも笑わせる事が出来ればポイントは基本的に増えるのである それに対して笑わずに耐えて1000ポイントを得るのには20回仕掛けに耐える必要がある そんな環境の現代日本で自発的にユーモラス行為を仕掛ける事が出来ず、無防備に晒される接客の仕事をするということがどれほど大変だかは深く説明するまでもないだろう わたしには無理 もっともユーモラス行為に耐性さえあれば時給が高く勝手にポイントが増えていく接客の仕事は最高らしいけれど (白けた空気のうちにドリンクバーに行こう) 歩きながら周囲をチラ見。連れと談笑したりメニューを開いている客が多い。まるで示し合わせたみたいに始まる空気が回復するまでのブレイクタイム わたしは厨房を向いた無人のドリンクバーにたどり着く 今の状況でドリンクバーに人がいないのは"仕掛けるタイプ"のわたしがドリンクバーを利用する事をみなが知っているからである 入店オーダードリンクバーという一連の流れは今も昔も変わらないが、今はより他人のそれを強く意識するようになった わたしはグラスをセットして緑のラベルのボタンを押す (やはりファミレスではメロンソーダに限る) コンビニに置いてあっても飲むことはないだろうに不思議なもので (喉乾いてるし一杯はここで飲んでっちゃおう) わたしはシュワシュワのメロンソーダをゴクゴクと一気に飲み干し、グラスを再度セットしてメロンソーダを注ぐ (……どうせならもう一杯飲んでから席に戻ろう) そう思い注ぎ終えたグラスを口につけた瞬間だった 「何杯飲むつもりだよ……」 「えっ」 声に振り返るとわたしの真後ろでグラスを両手に持った大柄のお兄さんが控えていた 「おっと失礼」 わたしがメロンソーダのグラスに口をつけながら順番を譲ると大柄のお兄さんは眉をひそめて露骨に舌打ちをする (やばば。全然気づかなかったや) 仕掛けられてたら危なかったな、と反省しながらメロンソーダを口に含んだその時、入り口でカランと軽快な音が響く。ふと目を向けると 「ブーッ!」 馬の被り物をした馬鹿が激しく上体を揺らしているのが飛び込んできてメロンソーダを吹き出してしまった (バッカヤロー出落ちにもほどがあるだろ) さすがに肉食獣の巣窟のファミレスで声をあげて笑うわけにはいかない わたしは咄嗟に座り込んで床を向き口を抑えて溢れだす声を閉じ込めた 「キャフッ……キャフッ……キャフッ……キャフッ……」 腹筋が痙攣を起こし変な声が漏れる。と 「お前、あれで笑えるのか?」 「キャヘッ」 顔をあげると大柄のお兄さんが真顔でわたしを見下ろしていた 「そうか。もしやと思ってはいたが」 お兄さんはそう前置きして口角を歪める 「お前、耐性がないな?」 「さ……さあ、どうでしょう」 トクンと心臓が跳ねる 「くく。しらばっくれても無駄だぜ。露骨にチャカチャカやってたのは危険人物を装い狙われるのを避けるためだな?そうと分かれば容赦しねーぞ」 (うっ……) お兄さんは両手に持ったグラスを置くとドリンクバーの陰から客席に姿が通るようにスッと移動し、野球の監督がバッターボックスに指令を送るようにスッスッスッスと高速で上体を動かす 「通しっ!?」 マズイ。このお兄さんこの店の常連だ。常連にしか伝わらないサインでわたしの耐性の弱さを共有した!? 「ククク。無事に席に戻れると思うなよ」 そういってグラスを手に持ち席に戻るお兄さんは、その一歩目でわたしの吹き出したメロンソーダで足を滑らせ盛大にこけ、両手に持っていたシュワシュワのコーラとメロンソーダを頭から被る 「キャフッ……キャフッ……」 「笑ってンじゃねーぞてめぇ!ちゃんと拭いとけや」 「ふ……ふふ……」 吹いてます そんなくだらない突っ込みが頭をかすめ体が痙攣を起こす中、わたしは必死にプルプルと声を絞った 「ご……ごべんばさい」 舌打ちしてウエイトレスさんの案内で店の奥へ行くお兄さんを見送りわたしは深く呼吸をして体を落ち着ける まずい状況になった。常連が何人いるのかは知らないけれどわたしの秘密が知られた以上は間違いなく狙われる それに懸念はそれだけじゃない わたしは入り口に目を向ける そこにはウエイトレスさんの案内を無視してわたしをジーっと見つめる馬男の姿があった (あれ絶対わたしを狙ってる……) こうなったら一刻も早く期間限定のトリプルレアチーズケーキを食べて退店するしかない わたしはメロンソーダをグラスに注ぎ席に戻る 床だけを見て歩いた 下手に周囲を探ろうとするとわたしに向けられたユーモラス行為が目に飛び込んでくる危険がある (今は防御を固める時) 本当は耳も防ぎたいがそこまでするとユーモラス耐性の低さが露呈する (なによ。何もないじゃない) 席にたどり着き、座ろうとしたその時だった 「おい嬢ちゃん。これなんだかわかるかい?」 突然後ろの席のおじいさんが野球のボールをわたしに見せてくる 邪悪な笑みを浮かべるおじいさんが握るそのボールには雑に「玉」という字がマジックで書かれていた (間違いない……このおじいさん……) 常連だ! 「くくく……」 (マズイ。周りの客の警戒度を高めていた事が裏目に……) 店中の視線がわたしに刺さっている 常連以外の客に弱気なところを見せるわけにはいかない 「野球のボールにしか見えませんが」 平然と答えながら、玉という字面を見てわたしは下ネタを警戒する どうせ下ネタどうせ下ネタと自分に言い聞かせ突発的な下ネタに対する抗体を作っておく 「おいおいちゃんと見ろよ。ここにギョク選手のサインが書いてあるじゃねぇか。これはな、なんとあの世界の玉選手のサインボールなんだよ」 玉選手とは日本人なら誰もが知る野球の神様である (そんなきったない字のサインボールなわけあるか) そうわたしが心の中で突っ込んだ瞬間だった 「ほう、玉選手のサインボホルですか」 通路を挟んだ向かいの席から、いやに甲高い声を出すメガネの男が立ち上がりやってくる 「くくく」 それに戸惑うことなく笑みを溢すおじいさん (うっ……) 間違いない……この人たち、コンビだ 「わたくしがかーんていしてさしあげましょう!」 メガネの男がおじいさんからボールを受け取って鑑定を始めると、おじいさんは両手をグーに握りリズミカルに腰を振り始め、胸の前で糸でも巻き取るかのようにクルクルと拳を回し始める 「おいおいあの爺さん露骨すぎる。あれじゃあコントだぜ」 「ユーモラス感覚が古いのよ。あれで笑えるような人間は令和のファミレスにはいないわ」 客席からの嘲笑じみた会話が耳をかすめる中、わたしは必死に歯を食いしばっていた わたしはユーモラス感覚が古いのかもしれない。おじいさんのコミカルで弱冠プリティーなニュアンスを含む動きに危うく腹筋を持っていかれそうになっていたからだ (落ち着け。二人の仕掛けを平然とはね除けろ!平然と!冷酷な!女王然とした態度で!) わたしがそう自分に言い聞かせているとメガネの男が甲高い声で叫ぶ 「こ……これはぁ!」 瞬間、おじいさんの動きがピタリと止まる 「にせ物ですね」 「なんじゃとぉ!」 「ここを見てください」 メガネの男はそういってボールに書かれた玉の「、」の部分を指差していう 「ボール一個分ずれてますよ」 そういってメガネの男とおじいさんはジーっとわたしの反応をうかがってくる (しょうもねぇ!) 野球の解説者がギリギリストライクゾーンから外れていたボールに対して「おしい、ボール一個分外れてましたね」みたいに言うのにかけたんでしょうが 「キャフ……し……しょうもなフヒヒッ」 だが、わたしの最大の弱点それは しょうもなくても、笑ってしまうこと 「キャフッ……キャフッ……」 静まり返ったファミレスにわたしの肺から漏れた声が響く 「嘘でしょあの子、あれで笑ってるの?」 「はは、まさか。ブラフだろ」 と、 「お嬢ちゃん、まいどあり」 おじいさんがスマホを見て溢した一言により、店内は異様なざわめきを覚える (ま、まずい) わたしがガクリと席に腰をうずめ頭を抱えた時だった 「お待たせしました。期間限定のトリプルレアチーズケーキになります」 「あっ」 トレイからテーブルにケーキを移すウエイトレスのお姉さんが天使に見えた (一瞬で食べて帰ろう) そう思った時、物凄い勢いでこっちに走ってくる馬男が視界に映り心臓がはねる 「ええ!?お客様ちょっと」 馬男はわたしが頼んだトリプルレアチーズケーキを鷲掴みにし、馬の被り物の首の根本からケーキを無理やりねじ込みんで被り物の中で音を断てて食べ始める (な、なにこいつ) キョトンとするわたしに対して馬男はポツリと呟いた 「うっま」 (馬だけに?) と、危うく自爆しそうになったが何とか堪える 「……てっ!その声は……」 「ふふ。気付いたかい。だめだぞぅ耐性が無いのにこんな所に寄っちゃあ」 そういって馬男が被り物を取ると 「お、お祖父ちゃん!?」 「う、浦部総理!?」 そこにはチーズクリームを顔中に付けたお祖父ちゃんの顔が 「ちょっとお祖父ちゃん!わたしのケーキ食べないでよ」 見慣れたその顔を見てほっとしたのかもしれない。わたしの中では先ほどまでの弱気が吹き飛び、冷静さが戻っていた 「ごめんごめんアイムソーリー。なんちゃって」 「しょうもなっ」 「……ク……クク……フフフフヒ」 「え?」 そのわたしにとっては聞き慣れたお祖父ちゃんのしょうもないダジャレに反応したのは、ウエイトレスのお姉さんだった ……今朝は懐かしい夢を見た わたしは池の鯉に餌を投げながら当時を振り返る (今あの頃の夢を見るという事は、やはり……) 「総理、お車の準備が整いました」 「今行くわ」 一族の地盤を引き継ぎ政治家となったわたしには決断が迫られていた ユーモラスシステムによって積極的なコミュニケーションを取ることが可能になった日本人ではあるが、国民性は遺伝子に刻み込まれた生来のものなのだろう システムが廃止されて30年経った今、当時と全く同じ問題が表面化してきている 曰く日本人には1枚の厚い壁があるのだと (ならば取っ払ってやろうじゃないの) 桜の花びらが舞う祖父の墓前に花を立て、寒空に叫んだ ー今こそユーモラスシステム復活の時ッー 完
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