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どれほどそうしていただろうか。
少女の肩からはとめどなく血が流れ、腕は真っ赤に染まっていた。
歴戦の戦士であるルカでさえも堪える傷にも、少女はただ優しく獣の背を撫で続け、微笑みを浮かべている。
「? ……ありがとう」
獣が肩から口を外して丁寧に優しく舐め始めた。
あれほど血に飢えたような凶暴な目をしていた獣は今は元々少女が飼い馴らしていたかのように、おとなしくなっていた。
「……すげぇ」
思わず零れた言葉に、少女が振り向いた。
大きな朱い瞳に、長い睫毛。
胸元まである金の髪は絹のようにやわらかそうで風に揺れている。
そして、腕と腰は筋力を使わず魔法に長けた神族らしく細く頼りない。
きっと桃色である筈の唇は出血のためか青ざめていたが、それでも少女は一寸の狂いもないほど美しかった。
「何も、凄くはないです。ただ、この子が悲しんで、悔しがってるのがわかったから……気持ちが落ち着くまで抱いていてあげたかった。私には、そんなことしかできないから」
その整った唇が放つ声も鈴が鳴るように清らかで。
ルカは、軽い眩暈を覚えた。
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