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「やっぱりちゃんと手当てした方がいいかな。どう思う? お前」
重たい瞼を薄く持ち上げれば、さきほどの獣と青年が顔を突き合わせていた。
あまりにほほえましい光景に、少女の思わず頬が緩む。
「……お、目ぇ覚めたか? うん、顔色少し良くなったな。薬草採って来たら倒れてんだもんよ。びっくりしたぞ。あ、無理すんな。傷なら手当てしといたから」
起こした背を優しく支える腕は、少女にとって初めてのぬくもりだった。
腕だけじゃなく、表情や物腰、纏った雰囲気から彼の優しさが滲み出ている。
「……ありがとうございます」
「おう、気にすんな」
月明かりのなか優しく微笑む彼が、とても自分の一族を殲滅させようとしてる人には見えない。
「……ごめん、なさい」
「なんで、謝る」
「私、武族の人たちは戦いが好きで、血や涙が流れても何も感じない冷徹な人たちなのかと勘違いしてました……」
ぎゅ、と地面に生えた草を掴んだ。
小さく恥ずかしい――と呟き落とし、少女は唇をそっと噛んだ。
父や仲間の神族が武族を蔑むたびに嫌な気分になっていたのに。
結局は、同じ考えを持っていた。
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