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「馬鹿息子はどこに行ったぁ!」
「ぞ、族長……」
噛み付くように食ってかかる一族の長に対し、茶色い髪に濃紺の瞳の青年は困り果てた表情を浮かべた。
無理もない。
普通の男ならまだしも、族長の身体は背が高くがっちりとした体格の彼より一回りも大きく、熊のような体型をしている。茶髪の青年がひとりで抑えられる人物ではない。
「族長、落ち着いて下さい」
「これが落ち着いてられるかぁ! 13歳の初陣以来初めての失態! 奴はこの『武族』を潰す気か!?」
「……そ、そんなことは、ない、かと……くそ、親子揃って同じ性格で鬱陶しい」
へらりと笑って流しつつも、彼の口からは本音が零れ落ちてしまう。
火に油を注ぐのでは――と危惧するも、杞憂に終わる。なぜならば、族長は怒りで周りの言葉が耳に入らなくなるタイプだからだ。
「あやつのことはすべてお前に任せているというのに! ナギル、お前っ」
「はいはい。ルカは俺が探しておきますから。向こうで休んでて下さいねー」
「こりゃ、話がまだ……!」
族長を天幕の奥へと押しやり、ナギルと呼ばれた青年はスタスタとその場を離れていく。
まだ何かを叫んでいたが、もう振り返る気も返事をする気もなく、彼の頭の中はひとりの男のことでいっぱいだった。
「あんっの馬鹿男、面倒臭ぇ後始末押し付けやがって……!」
族長の一人息子――ルカに対する沸騰しそうな怒り。
彼が戦いの後、いつも休んでいる場所はわかっている。
疲れ果てた部下たちを横目に、怒りのオーラを纏ったままのナギルは林近くに設置された天幕へと足を急がせた。
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