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勢いよくめくられた天幕の布の先には、こめかみにいくつもの青筋を浮かべて眉間に深い皺を刻み込んだナギルが立っていた。
「よお。どうした、そんな怖い顔して」
ルカとジスのあられもない姿に、彼らが何をしていたかは推測できる。
だが、ナギルは恥じることも戸惑うこともせずにルカだけを見つめ、その胸倉を掴みかかる。
「ふざけるな! お前、自分が何を言ったかわかってんのか!? 族長に知られてみろ、お前――消されるぞ……!」
ルカを激しく揺するナギルの表情は、親友をただ心配するものだった。
「消されるって、そんな大袈裟な」
「本当だ。過去、神族との争いに疑念を抱いた者は皆、消されている。……あの【武族の英雄】でさえもな」
「馬鹿言うな、彼の死は病気だったんだろ?」
【武族の英雄】――十年前に難病で他界した、武族の誇り高き戦士。
死した今もまだ彼に憧れる者は後を立たず、ルカもまたそのひとりであった。
子どもの頃に見た、【武族の英雄】が剣を振るう姿。
戦士に剣の訓練を施す姿。
それはまるで闘神そのものだった。
幼い頃は訓練をサボるとよく父に言われたものだった。
『そんなことでは、【武族の英雄】のようにはなれぬぞ』――と。
その言葉だけで、またどんなにきつい訓練でも頑張る気になれた。
そのくらい、憧れていた。彼のようになりたかった。
あの強さが、欲しかった。
その彼が――消された?
それこそ馬鹿馬鹿しい話だと思う。
族長はおろか、誰も敵う者がいなかったのにどうやって消すというのだ。
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