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「だいたい、ナギルも見ただろ? 彼の痩せ細った遺体を。ありゃ明らかに病死だ。剣の傷痕さえなかったじゃねぇか。どこで聞いたか知らねぇが、ただのデマだよ」
「じゃあなぜ【武族の英雄】は戦場に現れなくなった。俺たちが見たのは、葬儀の時だけだ。それも、ひっそりと行われた葬儀だ。墓もない。【武族の英雄】なのに、だぞ」
「それは……」
言われてみれば、彼は途中からぱったりと姿を見せなくなった。
難病と闘っていた、と言いたかったがそれも違う気がした。
思い返せば、あの葬儀はあれほど一族中から尊敬の眼差しを送られていた英雄のものとは思えないほど淋しかった。
――それでも。
いや、憧れていた【武族の英雄】が自分と同じことを思っていたという事実が更にルカの背中を押した。
「消されてもいいさ、俺は俺の思うがまま生きる」
「ルカ!?」
「お前何を呑気な……!」
素早く残りの衣服を着込んでにやりと笑い、ルカは天幕を後にした。
残されたふたりが飛ばす非難に、振り向くこともせずに。
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