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緑豊かな名も無き小さな国。
その小高い丘にそびえ立つ古い石造りの城。
遠い昔、祖先が住んでいたのだと聞かされた。
――何のために、一体誰のためにその城を神族の手に渡さぬよう戦っているのかがわからなくなっていた。
戦いの中、力をなくした同朋を泣きながら抱き、憎しみを込めた目を向けてきた神族の男。
ゾクリ、と背筋に悪寒が走った。
たかが古い城の一つや二つごときで血を流して、涙を流して何になる。
愛するこの地を、血で汚してまで手にいれる物とは一体なんなんだ。
「……」
空を見上げれば、真ん丸な月が光り輝いている。
その下にそびえ立つ城が憎たらしく思うようになったのは、いつの頃からだったろうか。
武族長の一人息子であるルカは、城を睨み据えながら眼前で佇んでいた。
ただ、己の心の中での葛藤と戦いながら。
「――……――」
「?」
歌声が聞こえ、咄嗟に城門の陰に身を潜める。
短剣しか持っておらず心許なさを感じたが、とりあえずは様子見をとそっと身を乗り出した。
「――ッ!? 神族……?」
ひとり歩きながら歌う少女の髪は紛れもなく神族の証である金色で。
長く揺れるそれは目を奪われるほど美しかった。
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