さくら

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さくら

一年ぶりに聞く祖母の声は、昔と変わらず優しく、そして元気そうだった。 「おぉ、美沙かい。久しぶりだね。どうしたんだい突然」 「さくらおばあちゃん、かばんに人の財布入れたまんまでしょ。持ち主の人困ってたよ」 かばんを探るガサゴソという音が聞こえ、やがて音が止むと、 「ああ、すっかり忘れてたよ。今すぐ届けに行かないと」 と返ってきた。 私はそんな祖母の抜けた一面を懐かしく思いながら、一つ気になっていたことを尋ねた。 「どうして、私の電話番号をあのおばあちゃんに渡したの?」 電話口から小さく息を吐く音が聞こえた。そして、 「困った時に一番頼れるのは美沙だからね」 と言った。 祖母の思いもよらない言葉に、私は、そんなことない、と反射的に思った。 「どうして?私はずっとさくらおばあちゃんにべったりで、一人暮らしするって決めてもおばあちゃんと別れたくない、って泣いちゃうような子なのに。それなのに一人暮らしを始めたらさくらおばあちゃんのことを放っておいて連絡もしないような白状な子だよ」 罪を白状するように話す私に、祖母は大きく笑って答えた。 「あんなにおばあちゃんっ子だった美沙が、一人暮らしで私のことを忘れられたなんて、おばあちゃん離れして頼れるようになった証拠だよ。よく頑張ってるね」 祖母の優しい言葉に私は救われたような気持ちになった。祖母は変わっていない。皆を幸せにする言葉を常に持っていて、それを一番のタイミングで差し出してくれる。私は祖母に無性に会いたくなった。 そうだ、来週は私も一緒に花見に行こう。祖母と、財布を失くしたおばあちゃんと、それと“エリちゃん”も呼ぼう。"エリちゃん"にもっと頼れる人になる秘訣を聞こう。 「さくらおばあちゃん、来週は一緒にお花見しようね」 と言って私は電話を切った。 ベンチから立ち上がり、ふと見上げた中庭の桜の木は、まだ蕾をつけるにとどまっていたが、大きく花開く予感をまとい、太陽の光のもとで、煌めいていた。
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