十年のほつれ

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「おやすみなさい、美優梨さん。」 寝る前にはいつも、ちゃんと挨拶する。 こういう挨拶は大事だ。定型化されているから、緊張せず美優梨さんと話せる。緊張せず話せた時は、ちょっと上手くやれている感じがして、気分が良くなる。 「おやすみ、彩ちゃん……」 私は美優梨さんの部屋の前を去って、向かいの自分の部屋へ向かう。 ああ、今日も頑張ったなって思って、自分のベッドへ歩き出す。 でも、そこで、 「あ、待って彩ちゃん。」 そう言って、美優梨さんに呼び止められた。 「な、なんですか?」 不意打ちだった。 完全にoffに向かって動きを弛め始めていた私の脳のタービンが、再稼働し出す。 「あのね、彩ちゃん。良かったらだけど、一緒の布団で寝てみない?」 「……はぁ。良いですけど。」 「うん。じゃあ枕持ってきたらまたこの部屋に来てね。」
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