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結局、姉からは有益な情報を得られなかった。ていうか馬鹿にされただけのような気がする。
だけどまぁ、あそこに行くしかないと、決意を固めるきっかけにはなったかもしれない。
そんなわけで、保健室を後にした俺はその足で生徒会室に直行した。まだ保健室にいるということにしてあるので、隠密にだ。
(……あそこに、彼女がいる)
生徒会室には、生徒会メンバーか顧問の許可が必要だ。逆に言えば、その許可さえもらえれば誰でも入れる。そして、蝉川という繋がりを持つ俺ならそう難しい話ではない。
だけど、俺は死角で息を潜め、生徒会室の扉が開くのを待ち続けた。
別に声をかけるのが怖いとがではない。隠密行動だから、表立って行動できないだけだ。
そして待ち続けること約三十分、ようやく生徒会室の扉が開いた。俺は何気ない顔で歩き出し、出てきた生徒会女子ズに声をかけた。
「あ、柴山先輩と末永先輩。ちょっと聞きたいことがあ」
「お前、さっきから何してんの?」
「え? 何のことやら……」
「30分くらい前からずっとあそこにいただろ」
「何故それを!?」
「小百合がお前の足音を聞いたんだよ。こっちに近づいてきたけど急に音がしなくなって、でも遠ざかってはいないから、多分どこかに隠れてんじゃないかって」
「え……扉閉まってましたよね? つうか忍び足だったと思うんですけど」
「えっとね、わたし、生まれつき音には敏感なのよ。その賜物ではあるけど、呼吸の音とか心臓の音とかで、相手が何を考えているか大体分かるのよね」
「え、何そのアニメのチートキャラみたいな特技!?」
「さすがに離れている人の考えは分からないけどね。せいぜい、どの辺りにいるのか把握出来るくらいで」
いや、普通にすごいと思う。というか化け物じみている。
テレビとかで紹介されたら売れるんじゃないだろうか。
「その特技でしょっちゅう、バ会長と蝉川を仕留めてるしな。この前のスマホ事件なんか、事情も知らないのに何があったのか九割言い当てたし」
「うーん、あの時は正直、ちょっとやり過ぎちゃたかなって。勘違いだったとはいえ、うちのメンバーが女の子の隠し撮り写真に興奮してたと思ったら……あまりの汚らわしさに抑えられなくなっちゃって」
「へ、へぇ……すごいですね」
末永小百合、弓道部の部長であり、生徒会の副会長の一人でもある。
おっとりとした言動の和顔美人なので、学校中の男子に人気があるが、その割にはその手の噂が一切ない。逆に、一部の男子は彼女を見かけたり話題に出てきたりするだけで、何故か挙動不審になるのだ。
そして、驚くことにタラシ野郎の蝉川もその一人だ。俺は深く考えなかったが、今の話を聞いて納得した。
(末永小百合、この人マジでヤベぇ……)
「でも、どうして普通に尋ねてこなかったの? 声をかけてくれれば開けるのに」
「いや、それは……」
実はなかなか意を決せなくて、ずっと右往左往していたなんて言えない。
俺はもう、半ばやけくそで本題に入ることにした。
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