1話 今と未来

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1話 今と未来

「なあ、時間ってどっちに流れてるんだろうな?」 「何言ってんの? そんなの過去から未来に決まってんじゃん笑」 「うん、まあそうなんだけどさ」 「また賢者タイム発動かよ笑」 「うるせぇ」 「オートで入るからな」 こいつは小学校からの付き合いのユウ(17)、同じ電車に乗り、同じカバンを持ち、同じ時間を過ごす。一緒にいる時間も長いので、普段から疑問に思ってることを話してはみるのだが、基本的に良い球は返ってこない。それどころか、賢者モードだとか賢者タイムだとか馬鹿にしてくる。 「賢者タイム担当大臣」 「だまれ笑」 そんな会話を繰り広げながら電車は止まる。最寄りの駅についた。 「じゃあな、明日もまた楽しみにしてるぞ」 「一回くらいまじめに考えやがれ」 「はいはい」 ドアが閉まる。にやにやしながら手を振っていやがる。わざわざ見送ってやることもないので、そそくさとホームを出る。今日はもうくたくただ。家まで10分が死ぬほど長い。 「変わらねぇ」 最寄り駅は中学生のころから利用している。通学路は5年間同じだ。新しい店の一つもできやしない。さすがにもう飽きた。 家の前につくと、母親が出てきた。鍵を出した手間が無駄になった。 「どっか行くの?」 鍵をしまいながら聞く。見た感じ買い物に行くようだ。 「あぁうん、私は今から買い物に行くけど、コウは何か飲みたいものとかある?」 「じゃあ綾鷹を」 「綾鷹はまだあるわよ、ないならもう行くけど」 「じゃあグレープのジュース買ってきてよ」 「了解」 母が買い物に行くたびに行われる週1回のなんの変哲もない会話だ。手を洗い、消毒をして、自分の部屋に入る。見慣れた配置に見慣れた机といす。特に何も考えずに座り、カバンを開く。 「宿題は明日写さしてもらえばいいか」 そういって宿題のプリントをよける。するとその下に重いのがある。成績表かって?違うよ。成績は良くはない。小難しいことを普段から考えているからって、テストの点が良いわけではないのだ。しかし気にしてもいない。苦労もしていないし、それによって得られる何かにも期待していない。僕は多分マシュマロテストでもいい結果を残せないタイプの人間だ。まあそれはいいや。 「進路かぁ、わかんねー」 そう、重いプリントとは進路希望調査書のことだ。高2も後半に近づくとこういう関係のプリントが増えてくる。1週間前には適正検査なるものをやらされた。果たしてあのようなアンケートで何がわかるのだろう。胡散臭いメンタルなんとかニストに金が流れていそうだ。それにしても重い、とても重い。 一度母親になぜ専業主婦をやっているのか尋ねたことがある。理由は至極単純、やりたくないことをなるべくやらなくて済むからだという。僕はその時、賛同こそしなかったものの、なるほどねと言った気がする。どれだけ少ないエネルギーで、成果を達成できるかという省エネライフだ。二理くらいある。 「あいつならどうするだろう」 ユウのことだから、スターとか大金持ちとか書いてるだろう。青リスキルはなかなか高等だが、精神年齢は低い。 「あとは大統領になるとか言いそうだな。大統領になって制服のスカートの長さ規定を変えてやるぞ、オーみたいな」 「それで、日本に大統領はいねえよってなって」 「そういえば政経のプリント昼までじゃね?やってないだろってなって」 「頼むよ コウ写させてくれ、じゃあパンおごりなってなるだろうな笑」 「調査書はまだ先だしな、めんどくさいけど政経終わらすか」 そう言って彼は政経のプリントを出し、宿題をやり始めた。 「ご飯できた」 母がそういったので、片づけて階段を下りる。今日はカレーみたいだ。 「カレーあったっけ?」 彼はカレーが好きだ。なので家にあるカレーの在庫状況はある程度把握している。あとこれは決してダジャレではない。 「なかったからさっき買いに行ったのよ、今日カレーがいいかなと思って。」 「なるほどね」 彼は何かがわかった気がした。 「グレープジュース買っといたよ」 「ありがとう、でも今は合わないから綾鷹でいいや。」 「そう」 間違っても母は、お前が買えって言ったんじゃねーかみたいな意図はこっちに向けてこない。 「そういえば知ってた? 夕食は睡眠の3時間前までに済ませたほうがいいんだって」 「なんで?」 「なんかすぐ寝ると、内臓が働きまくって寝つきが悪くなって睡眠の質が下がるらしい・・・あーなるほどね。」 「自分で言っといてなるほどねってどういうこよ」 「いやまあいいじゃん笑」 そう彼は気づいたのだ。 「グレープジュース持ってきなさいよ」 「はいはい」 彼は皿を片付け、冷蔵庫からジュースを取り出し、部屋に戻った。 「たまに飲むとうめえな」 扉を開ける。 「どわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 彼はジュースを半分ほどこぼしたようだ。 「誰だお前、あとその彼はってやつやめろ、彼はっての。なに唐突に視点に混ざりこんできてやがる。」 ?「まあ気にするな、そっちのほうがショック少ないかなと思ったんだよ、それより気づいたんだろう」 「ああ、まあな。だけどその前に名乗れよ、あんたいったい誰なんだ。」 ?「私か、私は・・・そうだな、なんて言えば良いだろう? 昔の君っていえばいいかな」 「・・・・・はぁぁ?」
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