2人が本棚に入れています
本棚に追加
「翼……」
思い出したかのように声を漏らした私は、彼の背中に一瞬見えたものに釘付けになる。
眩い光に包まれたそれは、まるで翼のように見えたからだ。直後その光は泡のように消えてしまい、私は自分が幻でも見ていたのではないかと思ってしまう。
「あの……」
ありえない状況に、ありえない人との出会い。
けれど不思議なことに、私の中でもう恐怖心はなかった。だから言葉を続けようとした時、先に青年の方が口を開く。
「約束を……叶えにきた」
とても澄んだ声で、彼はそう言った。その声に思わず心が震えてしまう。まるで教会の鐘の音を聞いた時のように。
返事が出来ずただ呆然と立ち尽くす自分に、彼はそっと右手を差し出してくると、私の左手を優しく握った。
そして時間が止まった世界の中を、静かに歩き始める。
「……」
どうしてだろう。
初めて出会ったはずなのに、初めて手を握られたはずなのに、何故か自分はこの感覚を知っているような気がする。覚えているような気がする。
なぜだろう……なぜこんなにも、自分の心が震えてしまうのだろう。
目元まで込み上げてきそうになる感情をぐっと堪えるように、私は足を止めた。
そして同じように足を止めてこちらを振り返ってきた彼の顔を見上げると、その優しい瞳に向かってそっと聞いてみる。
「君って……もしかして私とどこかで出会ってる?」
最初のコメントを投稿しよう!