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「ヤバい花蓮! 信号変わっちゃう!」
有紗はそう言うと、信号機が明滅している横断歩道に向かって一直線に走り出した。
「ちょっと有沙!」と私も慌ててその後を追う。が、彼女の足は意外と早く、私が横断歩道に一歩目を踏み出した時には、有紗はすでに向こうの歩道へと辿り着いたところだった。
その後ろ姿を見て、急がなきゃと二歩目を勢いよく踏み出したその瞬間。突然耳をつんざくような激しいクラクションの音が私の鼓膜を貫く。
え?
ビクリと硬直する身体。その瞬間、私は思わず足を止めてしまう。直後、視界の右隅に映ったのは猛スピードで走ってくる一台のトラック。そしてそれは一瞬にして私の間近まで迫ってくる。
「花蓮!」
有紗の泣き叫ぶような声が耳に届いた刹那、瞬きもできない僅かな時間の中で、私は一瞬にして事態を理解する。けれど、もはや指先一つ動かない。
嫌だ……こんなの……
意識が途切れそうになる中、それは、ほんの一瞬の出来事だった。
私の目の前で、突然トラックが止まったのだ。
いや、自分の視界に映っている何もかもが、まるで時間を止めてしまったかのように静止したのだ。
ほんの数センチ先まで迫っていたトラックも、明滅していた信号機も、そして私の名前を必死になって叫んでくれていた有沙も……自分以外の全ての存在が、写真の中に閉じ込められたみたいに時を止めていた。
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