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当時私と有紗が通っていた幼稚園では、毎年冬になるとクリスマスのイベントとして、園近くにあった小さな教会で合唱コンクールが行われていた。
とは言っても、幼稚園児の集まりなのでまとまりはないし、みな好き勝手に行動していた印象があった。
そして、その中でも教会に入るなり真っ先に自分勝手な行動を起こしてしまったのがこの私。
「あそこに花蓮がいる!」
列の先頭に立って誰よりも初めに教会に足を踏み入れた私は、万雷の拍手で迎えられる中でそんな言葉を叫んでしまったのだ。
しかもその小さな指先が示す先にあったのは、真正面に置かれたパイプオルガンの真上、鮮やかなステンドグラスの光を浴びながら翼を広げている天使の像だった。
この珍事件に拍手は一瞬にして笑いとなってしまい、その後私は小学校に上がるまでの間、保護者の方々や先生から「天使ちゃん」という非常に名誉ある名前を頂いて可愛がられていたのだ。
「あーダメだ……思い出しただけでも今すぐ消えたい……」
私はお箸を弁当箱の上に置くと、空いた右手でおでこを押さえた。もう忘れていたと思っていたのに、どうやらあの時の恥じらいは今も熱を失うことなく心に刻まれていたようだ。
「ね、考えてみればその可能性もあるでしょ? だって私たちあの時まだ幼稚園だったし」
「そんなわけないでしょ……だいたい幼稚園の頃なんてみんな思いつきで言ってるだけで、信憑性なんてまったくないって」
早くこの話題から逃れたかった私は、そう言って有紗の話しを全否定すると、熱くなっている頬を少しでも冷まそうとペットボトルのお茶を飲む。
けれど相手もなかなか強情で、簡単に逃してはくれない。
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