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「危なかったー……ありがとう有紗、助けてくれて。マジで死ぬかと思った……」
額に汗を滲ませて、私はふぁーと盛大に安堵の息を漏らす。すると頭上から有紗の不思議がる声が聞こえてきた。
「私、何もしてないよ」
「え?」
その言葉に驚いて、私は慌てて有紗の顔を見上げた。
「え、だって今私の腕掴んでくれたんじゃ……」
「何言ってるの花蓮。花蓮が階段下りる前に勝手に尻餅ついたんじゃん」
鈍臭いなぁ、と私と違って呑気にクスクスと笑う有紗。そんな彼女とは裏腹に、私は思わず背筋にぞっとしたものを感じてしまう。そして自分の右手首をすぐに見た。
確かに今、私のこの腕を誰かが掴んだのだ。
辺りをキョロキョロと見回しても、自分たちの近くには誰もいない。いくら有紗とはいえ、こんな場面で嘘をつく子ではないことはわかっている。
「じゃあ……一体、誰が?」
ぽかんとした表情でそんなことを呟いた時、私はまた誰かの視線を感じてハッと顔を上げた。
けれど視線の先にはやはり人の姿はなく、代わりに見えた廊下の窓からは、暖かく差し込む陽光がそっと自分を照らしていた。
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