一体だれ?

2/2
前へ
/12ページ
次へ
「危なかったー……ありがとう有紗、助けてくれて。マジで死ぬかと思った……」    額に汗を滲ませて、私はふぁーと盛大に安堵の息を漏らす。すると頭上から有紗の不思議がる声が聞こえてきた。 「私、何もしてないよ」 「え?」  その言葉に驚いて、私は慌てて有紗の顔を見上げた。 「え、だって今私の腕掴んでくれたんじゃ……」 「何言ってるの花蓮。花蓮が階段下りる前に勝手に尻餅ついたんじゃん」   鈍臭いなぁ、と私と違って呑気にクスクスと笑う有紗。そんな彼女とは裏腹に、私は思わず背筋にぞっとしたものを感じてしまう。そして自分の右手首をすぐに見た。    確かに今、私のこの腕を誰かが掴んだのだ。    辺りをキョロキョロと見回しても、自分たちの近くには誰もいない。いくら有紗とはいえ、こんな場面で嘘をつく子ではないことはわかっている。 「じゃあ……一体、誰が?」    ぽかんとした表情でそんなことを呟いた時、私はまた誰かの視線を感じてハッと顔を上げた。  けれど視線の先にはやはり人の姿はなく、代わりに見えた廊下の窓からは、暖かく差し込む陽光がそっと自分を照らしていた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加