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プロローグ
命あるものは、いつか死ぬ。
そんな当たり前の事実を、僕はカレンが寝台に寝かされるのを見るまで、どこか遠い世界の話しのように感じていた。
物語として知っているだけで、経験したことのない神話のように。
存在だけを何となく感じるだけで、目には見えない心のように。
僕にとってそれはどこか現実味がなく不確かで、触れることも握りしめることもできないもの。
だからだろうか。
いつものように穏やかな表情を浮かべている彼女の横顔を見ていると、まだカレンは生きていて、もうすぐ「おはよ」と僕に微笑みかけてくれそうな気さえする。
けれど、そんな機会はもう僕には二度と訪れない。
僕は彼女との約束を守れなかった。守り通すことができなかった。
カレンがこの世界で生きていく限り、僕は彼女の隣に並び、誰よりも美しい翼を持つカレンの命を守り続けていくという約束を、果たすことができなかった。
彼女の最後の飛び立ちの時を告げるかのように、教会の鐘が鳴った。
陽が沈むことのないこの世界で、唯一僕たちに時の流れを教えてくれる澄んだ音色。
そして、もしもカレンがまだ生きていれば、彼女がこの世界に生まれてから十七回目の生誕日を祝う音。
きっとこの鐘の音が鳴り終える頃には、カレンは向こうの世界で生まれ変わっているのだろう。
ずっと一緒にいるからーー
いつか彼女が約束してくれた言葉が、鐘の音と呼応するように耳の奥で蘇る。
僕が果たすことができなかった、彼女との約束。
彼女が果たすことができなかった、僕との約束。
この世界で一緒に生きていくという、誓いの言葉。
それこそが、僕の命が存在する唯一の理由で、そして誇りでもあった。
だから、これからは……
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