第二話 二重の愛

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 要するに、彼は自分の妻の望みどおりの男になっているということでもあるんだ。絶対安静の原因が何であれ、その状態が彼を金縛りにしている。その意味では絶対安静は自分の身体をさらけ出した良人への執着、もっと言えば、激しい情熱の形ともいえる。きっとそうだ、彼はその激しい情熱の産物なのだ。そんな男に恋した私は無意識にも彼の妻の激しい情熱をも恋していたのかもしれない。ああ、彼の妻ほどの情熱が私にはない。悔しい、自分自身に対して悔しさが残る。この悔しさを断ち切るには彼の妻以上に激しく情熱を燃やす以外にはないのだ。どうすればいい。・・・・ そうするしかなかった。 「どうしたんだ?血相を変えて。何があったんだ?」 「私はあなたから憎まれたい」 「憎まれたいだと?僕は君を愛しているんだ」 「私はあなたを絶対安静にしてあげる。奥様と同じようにね」 「おい、止めろ」 「私を憎みなさい。憎むのよ。フランスの武人、ラ・ロシュフコーが書き残していたわよね、女を愛せば愛すほど、憎むのと紙一重になるって。その逆もあると思うわ、女を憎めば憎むほどほど、愛するのと紙一重になる。ふっふっふ・・・・・」 「なにをするんだ!」 「憎みなさい、とことん私を憎むのよ」  これで、譲二は動かなくなった。だが、あら、呼吸してないみたい。どうしょう、絶対安静を通り越したのかもしれない。身体が冷たい。救急車を呼ぶなくては。お願い、死なないで、死なないで、生きていて欲しい・・・・・。私は見境もなくうろたえたのだ。  しかし、不思議だった。これまでになく、彼への愛情が強くなっていた。私は彼の妻の激しい情熱に勝ったような気がしてならなかった。これであなたは私のものになったのよ。そんな気がしてならなかった。
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