第二話 二重の愛

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当然のことだが、私は警察に自首し、取り調べを受けることになった。この先、何が私を待ち受けているのか、殺人未遂で身柄を拘束されるに決まっている。仮に釈放されても前科者の汚名は拭えない。それは仕方がない。その汚名は激しい情熱の裏返しでもあるから。それより彼が絶対安静から回復しないことを祈っている。私を憎んで憎んで憎み続けて欲しいことを願っている。たとえ、妻帯者の男に弄ばれた末の憎しみから止むを得ず愚行に及んなのだと、弁護士が私に助言したとしても、私はそれを受け入れはしない。むしろ、私は自分自身も絶対安静になることを選ぶだろう。  暫くして、警察から連絡があった。 「あの人は意識を取り戻されましたよ。ところで、君、嘘をつかないでくれないかな。あの人はこう言っておられた。君からは、なんの暴力も受けてはいない、犯人は付き合っているゲイの男で、警察に連絡をしてくれた君には感謝したいとね。それはそうだ、あの傷は男でなければ不可能だ。お嬢さん、我々を弄ぶんじゃないよ。今回の件は大目に見るからさっさと家に帰りたまえ。そうそう、あの人はこうも言っておられた。君は得体の知れない冷たい小悪魔だってな。まったく、こんな不気味な不倫騒ぎは犬も食わない。そういうことだ、わかりましたかな」  よかった。私の正体は未だバレてはいないなかった。私が女と男を演じ分けるダブルの人間であることを今もって誰も知らないのだ。女としての私は確かにひどく冷たい、だが、男としての私はとても情熱的なのだ。そうでなければあんなに酷い暴力をふるうなんて出来るものではないのだから。それはそれとして、これからどうすべきか、女としての私は少なくとも彼に感謝されているから、これからも私は女の演技を続けようと思う。上辺だけの冷たさを残しつつも、心の奥底では男として情熱を燃やし続けて。そして、私の男としての情熱の泉に冷たい彼を引きづり込むのだ。  突然、携帯が鳴った。 「君、妻が快癒したんだ。有難う。これから妻はリハビリに励まなくてはならない。残念だが当分の間、君とは会えない。妻も元気になれば今までのような関係は続けられないと思うから。悲しいけど仕方がないんだ。わかって欲しい...」  こんな冷たい言い草に対して、私は返す言葉がなかった。 唖然としていると、今度は別の携帯が鳴った。 「君、僕は君の暴力を許すよ。これからも僕と付き合ってくれないか、あの暴力で僕は目覚めたんだ。これからは情熱を燃やし生きていきたいと思う。君はなくてはならない存在なんだ、相手が男なら妻も許すと思うし、わかって欲しい」  私は男として強く言い返してやった。 「そうかい、とことんお互い情熱的になろうか...」    そして、この話の続きが、私の記憶のページをめくることになるとは…。
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