第二話 二重の愛

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「そうかい、50万なんて何でもないようだな。空威張りはなしだぜ」 「50万でいいのか?100万でもいいんだよ」    なんということだ、あの客も同じことを言っていたではないか。「50万でいいのか?100万でもいいんだよ」、この言葉、あの客は不可能にも関わらず男としての意地を張って俺に言ったのだ。 「100万だと?本当かよ、どうせ意地を張っているのだろう?」 「意地じゃない。なぜ借りようとすんだ?欲しいと言えば好いじゃないか。君のためなら何のこともない。君を愛しているからだ」  突然、俺の欺瞞の瞳の中から見える目の前の世界が豹変した。譲二という携帯電話の声の主があの客と重なったのだ。 「とにかく、君、これからも僕と一緒に素敵な夢を見ようよ」  なんということだ、俺は少しづつあの客のことが気になり始めた。今頃どうしているのだろうか、別のホステスと恋に落ちているのかも知れない。いや、ナオミという女としての俺に失恋して失意に暮れた人生を送っているのだ。孤独な人生を。夢のない人生を。そんな気がしてならない。 「お金なんて要らない。でも、これであんたとの関係は終わりにするぜ。あんたが俺に失恋することを願っている。あんたの失恋の涙を俺にくれないか、その涙を形見にして俺も失恋に浸ろうと思う。俺にとっては失恋の涙だけが己の人生をあまねく飾る美なのだ、きっと」  
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