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第三話 再びの別れ
俺は、あのビビアンという名の店のことが気になり行ってみた。たぶん嫌がられるだろう、突然黙って店をやめたからだ。
「あら、ナオミちゃん、戻って来たのね。皆、首を長くして待っていたのよ。今晩からでOK なの?」
意外だった、歓迎されていたのだった。
「ええ、そうしちゃおうと思って戻って来たの」
「ナオミちゃんさあ、あのお客さんのこと憶えている?ほら、あそこの席で項垂れて座っている方、ずっとあんたを待っているのよ。気の毒でならないの。でも、良かった、ナオミちゃん、慰めてあげてよ、お願いだから」
この俺の作り物の女装姿に悩ましさを色増した厚化粧、虚偽が欺瞞が花開くのだ。いや、虚偽が欺瞞が真実と化す瞬間なのだ。あの項垂れた後姿がそれを証明しているように見える。
「ご無沙汰、お元気?」
「ナオミ?ナオミなのか、戻って来てくれたのか」
「ええ、大好きな方だもん」
「僕も君のことが忘れられなかったんだ。もう君は僕のものだ。誰にも渡さない」
俺は恥も外聞もなく、さも可愛らしく囁やいてやった。
「ねえ、キッスして...」
「他人が見ているぞ、マスクを外すことになるぞ、いいのか?、そうか、....」
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