第一話 秘密の煩悶

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「あなた、黙り込んで何を考えているのよ。嘘でもいいから何か言いなさいよ!いつもなら、この辺で果てるくせに、なぜか今日は長く続くのね。悪い気はしないけど、なにか怪しいわ…」 「大した娘ですな、あの愛くるしいナオミが、そんな凄腕の女だとは、わからなかったですね」  私は殊更、よそよそしく喋るしかなかった。 「旦那、それで貸すお金は用立て出来るんですか?しかも今晩中にでしょう」 「実は弱っているですよ。銀行のATMは24時間引き出すことは出来るんですが、つい、うっかりしてキャシュカードを持ち合わせていない有様なんです」  私は銀行口座には殆どお金がないにも関わらず恰好悪くて嘘をついた。仕方がなかったのだ。 「だったら、そのことを彼女に言えばいいんですわ。旦那に無理強いするようなことはないと思いますわ」 「それでは私が莫迦にされますよ。男として、一度言ったことは後には引けませんから」 「なんなら、俺がお貸ししますわ。丁度50万持ち合わせておりますのでね。返済は一括払いでも分割払いでも旦那のご都合におまかせ致しますわ」  「それはそれは有り難い。10ヵ月払いでよろしいですか?」 「それでは、俺の名刺を差し上げますので、明日中に、この名刺に書いてある銀行口座に今月分の5万を振り込んでください。旦那の名刺を頂戴出来ますかな?それに携帯の番号も教えください」  なにか気になった。あまりに手回しが良すぎる。用意周到ではないか、こういうビジネスもあるのかもしれないと私は思い及んだ。もしかして、ナオミはこの爺さんと組んでいるのかもしれないとも。結局、借りるのは止めることにした。
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