第一話 秘密の煩悶

6/10

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「パパ、お待たせ、さっきの件、お願いね」 「ナオミ、悪いがお金を貸すのはないことにしてくれないか」  恰好悪いが、どうしょうもなかった。 「初めからダメ元なのはわかっていたわよ。そんなに弱気になる必要はないのよ。パパ、そんなにがっかりしないで、でも、好きよ、その哀愁帯びた表情、素敵だわ。キッスして」 「他の客が見ているだろう」 「いいのよ、パパだけが全てだから」  ナオミが客から借金しまくっているとはとても思えなかった。あの虚ろな瞳、私にすがろうとしていた。ああ、思い切り抱いてやりたいと焦った。ああ、なんとかしたいと。 「あなた、どうしたのよ?わたしを抱きたいの?その手つき、どうかしていない?止めなさいよ。そんなこと、この体位では無理なのはわかっているくせに…」  ナオミ、おまえを私のものにしたい、なんとかならないものだろうか。 「50万でいいのか?100万でもいいんだよ」 「どうして?気持ちが変わったの?」 「いや、今晩は銀行から引き落とせないだけなんだ。明日になれば大丈夫だからね」  私は又もや好い加減なことを言った。 「無理しないで、他のお客から借りるから」 「そんなことを言わないでくれ。私に任せてくれないか」 「パパ、素敵だわ、ナオミ、パパのものよ。わたしを好きなようにして。今夜はホテルに泊まりたいわ。でも奥さんが待っておられるでしょう」 「じゃ、三日後にしょうか、会社の出張ということにしておこう。お金はそのとき用意しておくからね」 「近くのホテルを予約をしておくわ。さあ、今夜の最後のダンスタイムだわ。踊りましょうよ。ワルツだわ」  ナオミは私の頬にキッスをした。可愛い唇。甘く、はかないキッスを。 「ああ、もう嫌だあ、あなた、その唇はなんなのよ、わたしにキッスでもしたいの?ダメ、ダメよ、よしなさいよ、この体位では無理だと言ったでしょう。あきらめなさいよ、あなたは身体は頑丈そうに見えるけど、もともと心臓が弱わそうだから、この体位でゆっくりやるしかないのよ…」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加