第一話 秘密の煩悶

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 ほのかに暗いホールにナオミが俯いて私の胸に切ない影を落としていた。お金がないのに、私は偽り、ナオミを抱いていた。三日後になれば、すべてが瓦解する。あれがナオミとの最後の踊りとなるのだ。もう逢うこともあるまい。ナオミは私のこの嘆きを気づいていた。それを知らないふりをして私に抱かれていた。そんな気がしてならない。今日という最後の夜に、ナオミは私に愛くるしくすがっていた。なぜ、行かないでと言ってくれなかったのだ。ナオミの瞼から涙が溢れていた。私はナオミの頬にキッスをした。別れの予感が唇を熱くしていった…、どうにもならなかった。私はホテルには行かず、店を後にしたんだ。 「おなたって、どうしょうない男ね、そんなところにキッスをして、いやらしい…」  お金がない…、私は初めて知った。純なる恋心を、ナオミの涙の中に、私も涙した。 「どうしたのよ、あなた、泣いているの?どうして?そんなに熱くなって大丈夫?変だわ、あなた、急に若返ったみたい。いいこと、浮気なんかしないでよ、他の女にあなたを獲られたくないわ。あなたは、わたしだけのものよ、・・・ どうしたのよ、あなた、あなた、大変!どうしょう、あなた、冷たくなっていく、死なないで、ああ、…」  もし、お金があったら…、私は太々しくナオミの待つホテルに行き、獣の戯れのように太々しくナオミとセックスしたはずだ。その後どうなるというのか、他の客と同じように益々お金が必要となるだろう。あの爺は、そのためにあの店に待機しているんだ。そんなことは想像したくもない。お金なんてなくてよかったのだ。ナオミ、がっかりしないでおくれ、おまえのことは忘れはしないから…。
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