第一話 秘密の煩悶

9/10

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 次の日の夕暮れ時、私はナオミの店の前を通った。 店の中は、あの夜と同じ灯が瞬いていた。私の足は店の中に入りたくてうずうずしていた。だが、胸の鼓動が乱れ始めていた。肉体の陰りが私を店から遠ざける。私はそのまま通り過ぎて行った。幾度も幾度も振り返りながら、.....  路地裏から白い猫が私の様子を伺っていた。私の目をとらえたのか、寂しげに鳴いた。私はつぶやいた。 ・・・・ナオミ、逢いに来たんだ。だが、店には入れないんだ。約束が果たせなくてな。おまえはさぞ幻滅しているだろう。・・・・ 「ちょっと、旦那、旦那、そこで何をしておられるのですかな?俺ですよ、先日、あの店で内緒話をしたではありませんか?旦那、そんな侘しい姿はいけませんわ。そうでした、そうでした、ナオミという娘ですが、突然店を辞めたらしんですわ。どこに行ったやら、もしかして、旦那の行方を尋ねて辞めたのかもしれませんわ。はっはっはっは、戯言、戯言ですわ。こうなったからには、今から、あの店で二人だけの送別会でもやりましょうや。旦那のこと気に入ったんで、ここは俺におごらせてください。聞くところによると、新しい娘が入ったらしんですわ。ニックネームがboon boonというのですわ。一体どんな娘なのか楽しみですわ…」  私は胸の動悸をいさめながら、この爺の後をよたよたと付いて行った。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加