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タスクと別れて三年が経った、寒さの残る春の夜。
大学の卒業式を控える私の元に一通のメッセージが舞い込んだ。就職予定の会社でアルバイトとして日々働いている私は、就職前だというのに残業続きの毎日を送っていた。
「追悼……コンサート……」
それは彼から送られてきていた。別れてから一度も会っていないのに、久しぶりとか元気とかそういう言葉はひとつもなく、「お世話になります」から始まる業務的な内容だった。
暗い部屋でベッドに横になり、携帯電話を見上げた。人工的な光が私の疲れた顔を映す。
「海道ワタル 没後十年追悼コンサート……日時は三月の……」
日と時間を読み上げて、私は体を跳ね起こした。
「明後日!? 何でこんな急に……」
前屈みになって画面をのぞき込んだ。三年ぶりの連絡が追悼コンサートのお知らせ、しかも明後日。何を思って今頃こんなーー
携帯電話を放り投げてため息をついた。まぶたの裏に張りついた文字がよけいな記憶を呼び覚ます。「海道佑」ーー先輩でバンド仲間で恋人だった、「センパイ」が「海道さん」になって「タスク」と呼ぶようになるまで時間はかからなかった。
寝返りを打って画面をスクロールさせる。大勢に送ったメッセージ、私個人への言葉はひとつもない。うっかり間違って送ってしまったみたいな印象、真に受けてのこのこ参上してもいいのだろうか。
そもそも、彼の父親である「海道ワタル」の追悼コンサートには一度も誘われたことがない。付き合っていたときも彼が参加することは聞いていたけれど、私はいつも自宅待機だった。
彼の父の楽曲は私も一通り歌えるし、ライブでキーボードを弾いたこともある。けれど決して許されることのなかった「追悼コンサート」の敷居を、別れて三年が経つ今になって踏み越えていいのか。
行かなければ後悔する、けれど行っても後悔するかもしれない。空白の三年間、彼は私に幻滅し、私は彼の現実を目の当たりにするだろう。
携帯電話を胸の上に置いた。静かな部屋でこだまする心音を聞きながら、いつの間にか眠ってしまった。
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