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教室から声が聞こえてきた。
「なぁ、聞いたか?」
「ああ、斉川のことだろ? 魔術因子持ちだったって」
「それで? やっぱり研究院に連れていかれたのか?」
「ああ、白い服を着た男達が迎えに来てたよ」
へええ、と相槌をうつ声が聞こえた。
一呼吸あってから、
「俺はあいつのこと嫌いだったな。なんか見てると腹が立つんだ」
「私も! なんかナマイキってゆーか!」
「全然喋らないしなあいつ!」
「実験体として使い潰されればいいのに!」
根も葉もない誹謗中傷大会が始まった。
子供はこういう時は残酷だ。
子供に限った話では無いのかもしれないが。
廊下でそれを聞いていた私は教師という役割を遂行する。
「こら! ひとの悪口はやめろといつも言っているだろ!」
私が一喝すると、
「やべ! フル先じゃん! 逃げろーー!」
わー、と児童たちは蜘蛛の子を散らすように雪の積もる外に逃げていった。
きっと、寮に帰ってから今の話をまた蒸し返すのだろう。親元から離されて寮に入れられる子供に娯楽はそう多くはない。
彼らは私が担任を受け持っている児童だ。
一方でため息をつきながらも、その悪口も仕方ないのかもしれない、と半ば諦めている自分にも気がついた。
そうするのがこの世界では正しいのだから。
魔獣によって世界が崩壊してから十年。
人間の生活圏は以前の十分の一も無い。
領土を取り返すために
魔術因子が無ければ、前線に出て魔獣と戦う必要は無い。
けれど普通の人間は、残りの人生を農場か工場で働かなければならない。私は体験でしか働いたことは無いが、一日に十時間もあんな場所に居たら、遠くない未来には体は壊れてしまうだろう。
魔術因子持ちが嫌われるのもやむなし、という気がするのは、私が普通の人間だからだろうか。
職員室に入ると、ラジオではニュースがやっていた。遠くの名も知らぬ国が魔獣によって滅ぼされたらしい。
半年ぶりとはいえ、このような報せを聞くと、いつも背筋がぞくりと凍える。
明日は日本が同じ道を辿るかもしれないからだ。
二十年前には想像も出来なかった状況だ。
私は、自分のスチールデスクから出席簿を取り出し、斉川マコト、と書かれた欄に二重線を引いた。
明日から彼女はこの学校には通わない。
健康診断で魔術因子が見つかったのだ。
特殊な機械でないと見つからないそれは、人間を人外たらしめるほどの力があった。
直接は見たことがないが、魔術には炎や氷、風に雷、果てには世界の理さえも操るほどの力があるという。
詳細は明らかにはされていないが、魔術師の養成学校がどこかにあるらしい。
彼女もきっとそこに通うことになるのだろう。
斉川マコトは大人しい生徒だった。
これといって目立つこともなければ、成績も凡庸。
いつも輪の中のすみっこでニコニコと静かに笑っているような、どこにでもいる女の子だった。
しかし魔術因子があることがわかれば、当人の意思とは無関係に、否が応でも魔導研究院に連れていかれる。そこで然るべき処置を受けて養成学校に送られる。元の日常が帰ってくることは永遠にない。
それほどまでに魔術師は、対魔獣戦闘において必要不可欠な存在となった。
それに伴い、魔術師の地位、権力も確固としたものとなり年収もそれに准ずるものとなっている。
妬みを買うのも当然だろう。
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