終末世界の私の終末

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斉川が行きそうな場所など皆目見当がつかないが、校舎全体を探してみることにした。 道すがら、隣のクラスのリーダー格の女子を見かけたので、それとなく聞いてみる 「斉川見なかったか?」 「斉川って?」 「ほら、うちのクラスのおかっぱでいつもニコニコしている」 「……さあ? 多分見なかったと思うけど」 「そうか、ありがとう」 礼を言って、足早にその場を立ち去った。 「斉川ーーっ。 居たら返事をしてくれ」 と何回も何回も彼女を呼ぶが、教室にも、図工室にも、音楽室にも、図書室にも、保健室にも、多目的室にも居ない。 「校内はもうここぐらいしかないか……」 彼女が一番居そうに無い場所だった。 体育館だった。 彼女は運動があまり得意ではなかったので居るとは思えないのだが……。 念の為に来たが、広い体育館にはやはり私しか居ない。 「斉川ーーっ。 居たら返事をしてくれ」 その声は体育館の壁に反射して、虚しい木霊となった。 ダメか。 そう思いかけたとき、物音がした。 体育倉庫の扉が少し開いて、中から恐る恐る、幼い女の子が顔をのぞかせた。 「せ、せん……せい?」 「斉川か!」 私は体育倉庫に駆け寄った。 それに驚いた斉川は体をビクっとさせる。 「大丈夫だ。斉川。落ち着いて」 「うん……」 体育倉庫の奥に彼女をとどめて、自分も中に入って扉を閉める。 「な。大丈夫だからな。な」 「うん……」 辺りに沈黙のベールが下りる。 あまり賢くない斉川は、なぜ私がここにいるのかを疑問に持たない。いや、持っていたとしてもそれを言葉にさせてはならない。 不安にさせないために何か話さなければならないか、と思ったが、下手なことを言って暴走させたら……。 そう思うと喉が乾いて乾いて仕方がなかった。 斉川は笑顔でないことを除けば、いつもの斉川で、三人もの大人を倒せるとは思えなかったが、魔術師の力を見たことのない私はその判断がつかなかった。 斉川はやはり、不安げな表情をしていたが、やがて 、ぽつりぽつりと話し始めた。 「せんせい。わたし、魔術師にならないとダメなのかな……?」 「え?」 「わたし、昨日までみたいにみんなと楽しく学校に通いたい。 みんなが笑っているのを見ていたい」 切実な願いだった。 それでも私には叶えることができない。 しかし、ほっとした。 ありきたりな答えでお茶を濁して不安を取り除くことぐらいは出来るかもしれない。 「魔導研究院にも同年代の子供たちがいっぱいいるぞ。きっと、楽しいところだよ」 「そうかな……」 「うん。きっとそうだよ」 それきりまた、二人とも黙りこくってしまった。 シモンに電話をするタイミングがどうしても掴めない。斉川の目の前で電話をすることが悪手なのは明白だ。 「せんせい? わたし、ふつうの人間、だよ……ね?」 「え?」 考えていて、返事が遅れた。 「私、ふつうの人間だよね……?」 三人の魔術師を倒した少女は質問する。 「あ、ああ……そうに決まっているじゃないか。斉川は普通の人間だよ。先生と同じ」 自分の口から出た声は驚くほど震えていた。 そこで、彼女の体が凍えていることに気がついた。 「寒かっただろ。 これ羽織っとけよ」 私は自分が着ていたコートを脱いで、彼女に手渡す。 斉川は 「せんせい。ありがと」 と言って、大きすぎるコートにぐるぐるとくるまった。 まるで繭のように大きな塊になっている。 ここでなら会話を切れる。そう確信した私は、 「先生は用事があるから、ちょっとだけここで待っててくれ」 私は自分の意図を探られないように、愛想笑いでそう語りかける。 それを疑うことも知らずに、彼女は無邪気ににこにこと笑う。 「うん。わかった」 「じゃあ、後でな」 彼女の日常を奪うことが申し訳なくて、私は目を逸らしてしまう。 だがしかし、自分自身の生活と受け持った生徒一人の生き方。 天秤にかけるまでもなかった。
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