1人が本棚に入れています
本棚に追加
そこで私は汗びっしょりになって飛び起きた。
「また、あの日の夢か……」
いくつものビール瓶が転がり、それぞれのパーソナルスペースなど皆無な部屋。
まだ深夜二時。
寝息を立てている者は多いが、この中の何人が悪夢を見ずに眠る
ことが出来ているか……。
あの事件から二年、私は教師を辞めて、前線に一般兵として立っていた。
ノイローゼを発症した私は教壇に立つことができなくなったのだ。
シモンの『 お礼』も使わずじまいで、貸しとして放置している。
だから、前線の一般兵という死に最も近い場所にいるのかもしれない。
何度か戦地で、本物の魔術師と魔獣の戦闘を見たが、あれは違う生き物だ。
苛烈を極めた戦場で、パワーバランスを破壊するその姿は、同じ人間とは到底思えなかった。
魔獣の死体処理のために近づいた時、魔術師の顔を見たが、高校生くらいの少女だった。
少女一人で決まってしまう戦場。
少女が闘わなくてはならない戦場。
吐き気に襲われた。
斉川マコト。彼女にはなにも出来なかった。
私の失態だ、と言うだけなら簡単だが、戦場を知った今は、あの時の判断は正しかったと思えるようになった。こんな世界で他者に優しくなれる方が異常だ。
そう思えるようになったのに、あの光景が夢にまで出てくるほどこびりついていて取れない。
その時、けたたましいサイレンが鳴り始めた。
「魔獣が出現しました。B班からF班は第二種戦闘配置についてください。繰り返します。魔獣が出現しました。B班からF班は第二種戦闘配置についてください」
ちっ。今日は来ないと思ったのにな。
そんな日を無想している毎日だが、一度として魔獣がやってこなかった日は無い。
教師をしていた頃が遠い昔のように思える。
瓶底のウイスキーを飲み干した。最後かもしれないのだ。
斉川に会うためなどではない。これは彼女への贖罪などでは無い。
彼女と私はもう関係ないのだから。
軍服に着替え、アサルトライフルを胸の前に掛ける。
精神安定剤を飲む。
また、地獄の一日が始まる。
同じ一日を繰り返すかのように。
きっと、今の私に明日は来ない。
最初のコメントを投稿しよう!