Re:ロード

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***  僕には大切な人がいる。僕の恋人だ。  恋人っていうのは、そうだな……いちばん大切な人、かな。ちゃんとした意味って言われてもちょっと難しいなぁ。大切な人はいっぱいいるもんね。うーん……この人となら死ぬまで一緒にいてもいいと思える人、とか。それくらい大切だってことだよ。  その僕の恋人……カオリって名前なんだけど、とにかく可愛いんだ。最初に出会ったのは大学一年のときで――大学はね、学校だよ。そう、小学校とかよりももっとすごいところ。いろんな人がたくさん集まるところ。だから、あるふたりの人が出会うのは小学校よりもずっと難しいんだ。そんな中で僕たちは出会った。奇跡だと思うよ。うん、今でもそう思う。  ある授業でたまたま席が隣になって――ああそっか、大学は毎日移動教室みたいな感じなんだよ。みんな受ける授業も違うし、教室のどこに座ってもいいんだ。そう。それで、その授業で近くの人とグループを作って話し合ってくださいって課題が出て。だからカオリともう何人かでグループを作った。それが最初だったね。  しばらくその授業では同じグループで話し合うことになったから、僕たちは連絡先を交換した。誰かが休んだりしてもいいように……っていうのは言い訳みたいなもので、本当は新しい友達ができるのが楽しいだけなんだけど。分かるでしょ?  最初の何週間かは、可愛らしい子だなぁくらいにしか思ってなかったんだけど。いろいろ話してるとさ、趣味とか分かってくるんだよね。そしたらバイクツーリングが趣味だっていうから驚きで。ツーリングっていうのはつまり、旅だよ。バイクに乗って旅するの。  ……。  ……ううん。続けるね。  僕も同じ趣味があったから、もう一気に盛り上がって。気がついたら今度一緒にどっか行こうって話になって、夏休みにはふたりで日帰り旅行をした。  まあ……正直、もうこの時点で僕は意識してたよ。カオリがどうだったかまでは分からないけど、でもきっと同じような気持ちだったと思う。だって好きでもない人とふたりっきりで旅行行かないよね。そうでしょ?  やっぱりそうだよね。  秋になる頃にはバイクの店にもふたりで行くようになったし、カラオケとかもしょっちゅう行ってた。こうなったら秒読みじゃん。あとちょっとで付き合えるってこと。  だから、クリスマスに告白した。そしたらカオリはにへらって笑って「もう付き合ってるもんだと思ってた」なんて言って。あのときは格好つかなかったなぁ。でもプレゼントしたネックレスは本当に大事にしてくれたんだ。  これがそのネックレスなんだけどね。  ……。  ……そのあとはもう毎日幸せ。取る授業なんかも合わせたりして、ハハ、まあ結構なバカップルだったかもな。毎日朝から晩まで一緒に過ごしてたよ。僕の家が大学に近かったから、次の日の授業が朝早い日には泊まりに来たりもした。  すごかったのがさ、僕とカオリは起きるタイミングがいつもほとんど一緒なんだ。目覚ましをかけてるわけでもないのに、だよ。目を開けたら、同時にカオリも目を開けるの。繋がってるって気がして嬉しかったなぁ。  ……今思えば寝てるフリしてただけなんじゃないかって気もするけど。どうなんだろうね。でもそういう優しいところも好きなんだけどさ。  ……。  一緒に夏休みを過ごして、一緒に二度目のクリスマスを迎えた。細かい話はまた明日とかにしてあげるよ。ほら、物事には順序ってものがあるでしょ。  ちょっとだけ? まあ、そうだねぇ……いろんなところをふたりで旅したね。日本のあちこちをバイクでかっ飛ばして。ああそうだ、写真があるよ。ほら、見て。綺麗な夕焼けでしょ。松島って知ってる? うん、そっか。日本三景っていって、有名な場所。残りの二つも行ったよ。写真は……まいっか。明日話すことがなくなっちゃうもんね。今見たい? ハハ、せっかちだなぁ。  本当にさ。  ……。  幸せな毎日がいつまでも続くと思ってたんだけど、神様は僕たちが気に入らなかったみたい。何が悪かったのかは知らないけど。嫉妬したのかな?  とにかく、カオリは…………。  …………。  ……事故に、遭った。僕の目の前で。  うん、大丈夫だったよ。命は取り留めた。はねたトラックの運ちゃんが僕よりも早く救急車呼んでさ。あの人は恨みたくても恨めないよ。恨めるのはこの世界の残酷さだけだ。  助かりはしたんだけど、でもただでとはいかなかった。もちろん骨とかは折れたけど――そう、君と同じ。だからあんまり動いちゃダメだよ。  でもさ、それだけじゃないんだ。  ……今日はここまで。 ***
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