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「えー?! 続きは? カオリはどうなったのー!」
彼女がせがむのも無理はない。僕の話はあまりにも唐突に終わったと僕自身も思う。でも世の中は得てしてそんなものだ。始まりは唐突で、終わりも唐突。それは道路も物語も変わらない。
――そもそも、この話に続きなんてない。なぜなら、最後に話した事故とはつい一週間前の出来事で。
「明日は違う話をしようね」
「なんでー?!」
この話の中に出てきたカオリとは、昨日意識を取り戻したばかりの、目の前にいる彼女のことで。
「さて、何ででしょう?」
そしてこれだけ思い出を話しても何ひとつ思い出してくれない彼女と、もう物語の続きを紡ぐことはできないからだ。
「おはなしやさん、おしまい」
「えー! やだー!」
今日はもう、堪えられそうになかった。
もちろん、諦めるつもりはない。だから明日からはもっと細かい思い出を話すし、何か記憶を取り戻すきっかけになりそうな品々もたくさん持ってくる。
それでも、カオリが二度と元に戻らないなら。
「僕はまた明日も来るから。ね?」
「……はーい」
そのときは、そこからまた彼女と一緒に新しい道を走ればいい。そこからまた彼女と幸せな日々を過ごしていけばいい。それだけ、たったそれだけのことだ。
なぜならカオリは、死ぬまで一緒にいてもいいと思える人だから。僕のことはおろか、十年分の記憶も、自分の名前まで忘れてしまったとしても。
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