第三章【桜柄のハンカチ】

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  ――四月九日――  その日が月曜日だということを、夏帆は朝のニュースで知った。ということは、昨日は日曜日。刑事をやっていると、日付の感覚はあっても曜日の感覚が抜けてしまう。二十四時間、三百六十五日、事件がある限り刑事に休みはない。  夏帆が泊まっているのは、式場や平安神宮に近い観光ホテルだった。ホテルが取れたと言っても予約サイトは軒並み全滅で、直接電話をかけて空室を問い合わせるしかない状況だったが、ふと思いついたのは市原彩也子のことだった。結婚式場はホテルと提携していて、遠方の招待客が安く泊まることが出来るシステムがあると聞いたことがある。夏帆はダメもとで『リバーサイドガーデン京都』に引き返し、彩也子に尋ねてみると、彼女は快く宿を手配してくれた。もちろん、観光ホテルだったからそれなりに値は張るが、藤崎管理官を言いくるめ、あとで絶対に経費で落とすと心に決めて、京都の夜を堪能することにしたのだった。  ホテルを確保したあと、夏帆は京都駅で防犯カメラのチェックをすることにした。内藤深雪の足取りを追うためだったが、さすが観光シーズンの京都。大勢の中から一人を見つけ出すのは容易ではない。九時半に深雪と和磨が到着したのは新幹線の改札口の映像で確認できたが、一人でその他すべての映像をチェックするのは不可能だ。映像の回収には特捜本部から正式な捜査関係事項照会書で依頼せねばならず、その手続きは東京に戻る葛木に指示しておく。  深雪の足取りを追うのは、思ったより骨が折れそうだ。できないことはあと回し。やれることをさっさと済ます。夏帆は速やかに方針転換し、内藤和磨、深雪の両親、名取早紀のアリバイの裏取りを片付けることにした。結果、それぞれ目撃者や防犯カメラ映像が見つかり、あっさりアリバイは成立。  深雪を京都で殺害し、東京に運んだ線もなくはないが、死体を運ぶには車がいる。スーツケースに入れて新幹線で運ぶのはリスクが高すぎるし、駅の防犯カメラに写ればアリバイの意味がない。  やはり、深雪の足取りがカギだというところに戻り、昨日はそこでいったん区切りをつけることにしたのだった。  ホテルは夕食、朝食付きで、それぞれ豪華な京料理の部屋食だった。今頃、葛木と芽衣は新幹線で駅弁かな。  夏帆はニュースに目をやりつつ、朝食を口に運ぶ。薄味だけど美味しい。 《それでは、今朝の関西のニュースです。今日未明、京都市左京区の路上で、男性の死体が発見されました。現場は京都市動物園付近の路上で、夜は人通りの少ない場所でした。被害者は東京都在住の内藤和磨さん、三十二歳。内藤さんは刃物で刺されており、警察は殺人事件として捜査を進めています》  なんだって――!
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