【イカヅチ】

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 朝、二人でトーストを食べる。その最中、僕がどんな仕事をしているのか質問された。 「食事をしたり、笑顔でいたり、そんな当たり前なことを、みんなが当たり前に出来るようにする仕事だよ。」  こんな曖昧な答えを、テンは笑顔で納得してくれた。本当に理解できたかどうかは、分からない。  テンを一人残すことに不安を感じながら、家を出る。そんな僕の心配を知ってか知らずか、テンは満面の笑顔で見送ってくれた。  外に出ると火山灰の匂いが鼻につく。ポケットに手を入れ、マスクを取り出し装着する。  この日の職場では、朝から緊急の会議。会議室の巨大モニターが、世界各国の首脳を映している。中~小国が、2つの大国のどちちらにつくのか。その表明を捉える為に。  長引く会議の中、一人の発言で流れが変わる。 「イカヅチをもって制する。」    その言葉への賛同者が徐々に増え、多数となる。多数になると強行手段を唱え始める。僕は必死に反論したが、大多数により作られた流れを覆すには及ばない。ついには、会議の進行の邪魔だと追い出されてしまった。  強行派は、「秩序を守るため」なんて大義名分を並べている。しかし、僕から見れば、自分達の覇権を守るためのエゴだと思う。  この後、早々にイカヅチが落とされるのだろう。落とす場所の予想はつく。会議から追い出された僕は帰宅させられた。家に着いたのは既に、夜遅い時間だった。  
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