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惣菜店の外で、女性に質問した。
「何してるんですか?」
「これを食べてます。」
常識は通じないようだが、言葉は通じて良かったと思う。
「なんでチキンを食べてるんですか?」
「お腹がすいてたんです。これ、チキンと言うんですか。美味しいですね、チキン。」
そう言って、満面の笑顔でチキンにかぶりつく。
女性が何者なのか、なぜ勝手に僕に支払わせたのか、思わず疑問と不満を込めて立て続けに口にする。
女性は、食べかけのチキンを口から放し、僕の顔をマジマジと見つめてくる。
童顔な日本人でもあるようで、どことなくエキゾチックな雰囲気もある。
「わたしは…。」
女性が何か言おうとしたその時、背後から別の声が聞こえた。
「しょぼい男がイイ女連れてやがる。」
それは、男性の野太い声。振り替えると、4人組の男がいる。彼らが現れた瞬間、惣菜店のおばさんは慌ててシャッターを閉じた。この近所では有名なゴロツキ。
女性に意識を向けすぎて、周囲への警戒を怠っていたことを後悔する。自分一人なら逃がれるくらい簡単だが、この女性を連れては難しい。
リーダーと思われる男が女性に近づき、まだ食べていない方のチキンを奪い取る。
「わたしのチキン!」
驚く様子の女性を無視し、男はチキンを大きく頬張る。汚い租借音をだしながら女性を舐め回すように見て、不敵な笑みを浮かべる。
大きく喉を鳴らすようにチキンを飲み込むと、残りを道端に投げ捨て、僕に詰め寄って来る。
「こいつはもらっていくぜ。お前の女ってことはねーだろ。」
「だ、だめだ、この子は僕の彼女だ。」
絞り出すようにそう答える。この女性が誰なのか知らないが、彼らに渡すのはまずい。
男は、僕に詰め寄ってくる。胸ぐらを掴まれ、至近距離で睨みつけられる。
こうなっては仕方がない。覚悟を決めて、ポケットに手を入れる。中にある物を握った。その時…。
女性が大きな声を上げた。
「チキーン!」
すると、男は不機嫌そうな表情で女性を睨みつける。
「おい、チキンチキンって、ずいぶんな言葉を言ってくれるじゃねえか。口の悪い女は俺がしつけてやろう。」
男は僕から手を放し女性に一歩詰め寄る。すると女性は低く身構えた。その表情は、先ほどまでとは別人のように鋭い目付きに変わる。
男は僕から手を放し、女性へゆっくり詰め寄ったその瞬間、鈍い音が響く。
女性の右肘が男の腹部にめり込み、続いて男が膝から崩れた。
連れの男3人が咄嗟の出来事に呆然としている中、女性は捨てられたチキンを拾い上げる。
「私のチキン…。」
泥にまみれたそれを悲しそうに見つめる女性からは、既に鋭い表情は消えていた。
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