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[無事] とは
「それっくらい知ってらぁ!」
まあ、そう言わずに。
無事ではない日々を過ごしてない?
『平穏』 『安穏』
それから遠い場所にいない?
上田敏さんがね、外国の詩を訳してるの。
知ってる人もいると思うけど。
――春の朝――――――――
時は春
日は朝
朝は七時
片岡に露みちて
揚雲雀なのりいで
蝸牛枝に這ひ
神、そらに知ろしめす
すべて世は事も無し
_____________
揚雲雀っていうのは、春に高く舞い上がって鳴いているひばりのこと。
ひばりは「春を告げる鳥」として昔っから世界中で親しまれているんだって。
繁殖期の雄が空高くから「ここは俺の縄張りだ!」って宣言すんの。
だから「なのりいで」なんだね。
平和なセックスの予兆だ。
いや、繁殖か。子を増やす。
原文は、イギリスのロバート・ブラウニングさん(1812~1889)って人が書いた長編詩のごく一部。その原文が、これ。
The year's at the spring
And day's at the morn;
Morning's at seven;
The hillside's dew-pearled;
The lark's on the wing;
The snail's on the thorn:
God's in His heaven ――
All's right with the world!
割と簡単な英語なので、中学生の辞書片手に訳せるよ。
たくさんの人が訳してるけど、有名なのは敏さんの詩。
教科書に載るのもこれだね。
他には、
――――――――――
年は春
時は朝
朝は七時
丘の斜面には真珠の露がおり
ひばりは空に舞い
かたつむりはサンザシに這う
神は天に在り
この世はすべてよし!
――――――――――
歳はめぐり、春きたり、
日はめぐり、朝きたる。
今、朝の七時、
山辺に真珠の露煌く。
雲雀、青空を翔け、
蝸牛、棘の上を這う。
神、天にいまし給い、
地にはただ平和!
___________
とか、ある。
あなたにはあなたの訳ができるからやってみると楽しいよ。
『赤毛のアン』では、アンがこんな風につぶやいている。
「神は天に在り、この世は総てよし」
God's in his heaven, all's right with the world,' whispered Anne softly.
似たような中身ね。
ところで。
上の訳詩からピックアップ。
〇「年は」「時は」「朝」
朝7時なら、いつでもいいんだね。
7時ならみんな起きてるよね、って選んだのかな。
できれば青空がいいね。
〇「蝸牛枝に這ひ」って、想像してみて。(3人分合体!)
・かたつむりはサンザシに這う
・蝸牛、棘の上を這う。
原文では、「on the thorn(棘の上)」
敏さんは、この棘って言葉を使わなかった。
これ、ただの棘だから「サンザシ」ってしたのはなぜかな?って思ったけど、この「thorn」に「haw」をつけて、「hawthorn」にするとサンザシなんだよね。
棘っていろんな樹木にあるんだけど、茨じゃ風情が無さすぎる。バラじゃ風情を通り越している。
だからサンザシにしたのかな?
この詩の中で言ってる『棘』。
これに含まれているのは「差し障りだ」ってどこかに書いてあったと思う。
つまり、苦難とか、障害とか。
それをカタツムリは難なく這ってっちゃうんだ。
「なんてこと、ないさ」って。
〇「God's in His heaven ――」
・神、そらに知ろしめす
・神は天に在り
・神、天にいまし給い
「神様は天国にいるよ」
直訳すればそういうことなんだろうけど。
ならどうして「ことも無し」で「すべてよし」で「世は平和」なんだろう?
結局ね、神さまが必要とされるのは苦しい時、悲しい時、辛い時なんだ。
だから「神さま! 今来て! そばに来て助けて!」って呼びかける。
そうすると神さまは「出番だ!」(失礼!)とおいでになる。
――――――――――
特に定めのない時の中
ひばりは変わらず春の朝につがいを求めて鳴いている
カタツムリは棘を乗り越え
真珠の露は雫となり地を濡らし、恵みを与える
神さまは自分の世界においでのよう
いい朝じゃないか、なにもない
世の中はなんてことなく、ただ過ぎていくだけ
――――――――――りふる
私の訳詩は、これ。
ちょっと色気ないし、要らん言葉も入ってるけどその辺は自由にってことで。
あなたはどう?
「なんてことないさ」って這って行けそうかな?
私はまだしばらく時間かかりそう。
2021.06.14
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