126人が本棚に入れています
本棚に追加
/118ページ
何もかも捨てたけれど、唯一捨てられたくないと縋りたかったのは彼一人だけ。
でもその彼にすら、ずっと縋っていたい自分をさらけ出すことなんてできなくて、嘘で言葉を塗り固めた。
いつか、気づくかもしれない……私なんかの絆創膏でいるよりも、きれいな元嫁の良さに。
一度だけ支社に来ていた、その人を見た。
噂になるだけあって、本当に綺麗で佇まいの美しい人だった。
根っからのお嬢様って感じの、俄かでは手に入らない上品さ。
伸びた背筋も、整えられた長い髪も、まるで私とは正反対。
功太は……魔が差して私の手を取ってしまったんじゃないかって、今でもまだ思う。
俯むいた先、左手で鈍く存在感を放つソレを私の目が捉えて離さない。
これに縋っているくせに、いつでも外す覚悟をどこかでひっそりとしている自分が情けない。
最初のコメントを投稿しよう!