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──やられた。
俺は、頭を抱えていた。
まさかこんなことになるなんて思ってもいなかった。
それは、ほんの数分前の事だった。
普通に歩いていたらバイクで走ってきた男に後ろのポケットにいれていた財布を盗られた。
まさか、ポケットに入っている財布をバイクの奴に盗られるなんて思ってもいなかったから、完全に油断していた。
ああいうのって普通、女性の鞄を狙うもんじゃないか?──と思ったけれど、しかし盗られてしまったものはもうどうしようもない。
目下の問題は、どうやって家に帰るか、だ。
俺は電車で三時間ほどかかるところから仕事に来ていた。
その電車賃が入っていた財布は、今手元にない。
つまり、お金がない。
──くそう! 今日は楽しみにしてた『板東の☆ゆで卵の選び方!』の放送日なのに! このままじゃ観れないじゃないか!!
時計を見れば時刻は十五時。
確かあの番組は十九時からのはずだ。
ということは放送まであと四時間。歩いて帰ることも考えたが、しかしそれでは歩いている間に放送が始まってしまう。
ゆえに、歩いて帰るのは現実的ではない。
やはり電車に乗って帰るのが一番のようだ。
しかし、お金がないのでは電車に乗れない。イコール、『坂東の☆ゆで卵の選び方!』は観れない……。
俺は真剣に考えた。
電車に乗って帰る時間も含めて考えると、あと二時間しか猶予がない。
けれどこのまま、何もせずに放送が終わってしまうのを待つくらいなら……。
俺は辺りを見回し、その辺に落ちていた石を拾った。
日本昔話大好きな俺には、ひとつだけ案があった。
──この石を、絶対に電車賃にしてやる!そして、何としてでも『坂東の☆ゆで卵の選び方!』を観るんだ!!
こうして、俺は『わらしべ長者』ならぬ『石っころ長者』を目指すことにしたのである。
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